視点

SI事業者のDXは「作る技術」から「作らない技術」へとシフトすること

2021/08/25 09:00

週刊BCN 2021年08月23日vol.1887掲載

 顧客の需要は「作る技術」から「作らない技術」へとシフトし、コロナ禍はこの変化を加速している。

 背景にあるのは「顧客接点のデジタル化」や「業務プロセスのデジタル化」へと需要が高まり、取り組むべきテーマが、短期間に集中したことだ。

 従来の「丁寧なやり方」では対処できず、既存のクラウドサービスを組み合わせ、ローコード開発ツールを使い、できるだけ作らずにサービスを実現しなければならない状況に追い込まれてしまった。

 SI事業者は「組織力を使って、作る技術を持つ人たちを動員する」ことを事業価値としてきたが、この変化は、それを否定する。そんな自己否定は受け入れがたいから、「作る技術」のビジネスモデルをそのままに「作らない技術」であるアジャイル開発やクラウドなどで装飾して、見た目を取り繕うとしているところもあるようだ。

 昨今のDXブームもまた、SI事業者を追い詰める。「お客様はこのままでは大変なことになる」と、自分たちの「あるべき姿」を見直そうとしているが、顧客がSI事業者に相談すると「何をしたいのかを示していただければ、解決策を提供します」というスタンスを崩さない。顧客はそれが分からないから相談しているのだ。

 彼らの期待は、この現実に共感し、一緒に考え、先生として自分たちの「あるべき姿」を示してくれることだ。100点満点でなくてもいいが、たたき台を示し、対話を重ね、解決策を見つけたいと願っている。ところが、できることを前提に「実績がない」や「時期尚早」としか言えなければ、やがて顧客に愛想を尽かされる。

 DXブームに乗じて、組織力で、作る技術を持つ人たちを動員するビジネスを拡大しようとの目論見は筋が悪い。この機会を転機と捉え、「作らない技術」を前提としたビジネスモデルへの転換を図ることが、SI事業者の「DX戦略」であろう。「お客様のDXに貢献します」と言う前に、まずはそんな自分たちの「DX戦略」を実践することだ。
 
 
ネットコマース 代表取締役CEO 斎藤昌義
斎藤 昌義(さいとう まさのり)
 1958年生まれ。日本IBMで営業を担当した後、コンサルティングサービスのネットコマースを設立して代表取締役に就任。ユーザー企業には適切なITソリューションの選び方を提案し、ITベンダーには効果的な営業手法などをトレーニングするサービスを提供する。
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