視点

空間がメディア化する未来

2021/07/28 09:00

週刊BCN 2021年07月26日vol.1884掲載

 国土交通省が都市空間の3Dデータをオープン化したサービス「PLATEAU」をスタートさせた。だれでも都市の3Dデータを利用することが可能となる。まずは防災や都市計画など、これまで2Dのマップデータでシミュレーションしていたものを、3Dマップで行うことが可能となるのだ。

 例えば、昨今大きな災害をもたらしている集中豪雨によるハザードマップも色分けで危険と表現されるよりも、自分の家がどの辺りまで浸水するのか3Dマップで表現されたほうがピンとくる。先日の熱海の盛土が原因とされる土砂災害は、3Dマップからの検証によって原因究明がなされたと報道されている。今後は自治体が保有するオープンデータとも連携することから、さまざまな活用が期待されている。

 初期は都市開発や防災といった事業にかかわる人が中心になっているが、今後はより日常生活におけるパーソナルデータとの連携が進む。街の3Dデータをデジタルツインデータとして扱うことによって街中の空間に、情報や映像を現実の世界にぴったりと合った形で表示することが可能となるのだ。

 つまり空間はメディア化する。これはライフスタイルを大きく変える、とても大きなイノベーションを起こす可能性を秘めている。現在、街にはすでに大きなビジョンが立ち並び、ビルの壁面もディスプレー化し、街中に情報が溢れている。これらの広告媒体は個人が装着するARグラスから見る映像に置き換わっていくだろう。

 ARグラスはスマートフォンまたはそれに代わる小型コンピューターに無線接続され、AIが選別した情報や希望した情報だけが現実のビルや空などの環境にぴったりと位置合わせされた状態で表示される。つまり、大勢の人に見られることに価値があった屋外広告は、見る人の興味関心によって分けられ、個人のスケジュールやSNSの履歴などからより必要な情報が表示されるようになる。

 情報が氾濫した現代、広告は時と場所、個人の状況にあわせて表示されることになる。これは人間の機能の拡張にほかならない。予定に合わせて忘れ物がないか(持ち物の位置が一緒に移動しているか)を推定して、忘れ物を教えてくれることも容易になるだろう。

 今後、AR/VRの世界が大きくビジネスシーンも変えていく。全てのビジネスマンが見逃せない分野となるだろう。

 
事業構想大学院大学 教授 渡邊信彦
渡邊 信彦(わたなべ のぶひこ)
 1968年生まれ。電通国際情報サービスにてネットバンキング、オンライントレーディングシステムの構築に多数携わる。2006年、同社執行役員就任。経営企画室長を経て11年、オープンイノベーション研究所設立、所長就任。現在は、Psychic VR Lab 取締役COO、事業構想大学院大学特任教授、地方創生音楽プロジェクトone+nation Founderなどを務める。
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