視点

自分に役立つAIは自分で育てる

2025/04/16 09:00

週刊BCN 2025年04月14日vol.2055掲載

 「ChatGPT」の大規模言語モデル(LLM)のバージョンが4.5へと上がった。バージョン3.5でサービスを開始した当初と比べて、わずか2年数カ月の間に性能は著しく向上し、進化のスピードにはただ驚かされるばかりだ。米Microsoft(マイクロソフト)「Copilot」、米Google(グーグル)「Gemini」、米Anthropic(アンソロピック)「Claude」、米Perplexity AI(パープレキシティ・エーアイ)「Perplexity」など競合する生成AIも急速な発展を遂げており、ネット上は性能比較や評価で賑わっている。

 学術研究であれ商業調査であれ、公開データを収集・分析し、論文や報告書を作成する業務に携わる人にとって、生成AIが極めて強力なツールとなったことは否めない。ただし、現状の生成AIはあくまで公開された情報をベースに動作しているため、利用者自身やその仕事を詳しく理解しているわけではない。

 人々が自分自身や自らの仕事を深く理解し、「自分専用に機能する生成AI」を求めるのは自然な欲求といえよう。しかし、そのようなAIの開発を第三者に委ねて上手くいくとも考え難い。個人特有の感性や微妙なニュアンス、背景にある深い文脈を正確に他者に伝えることは極めて困難で、完全に再現することはほぼ不可能である。自分専用の生成AIを育成するには、自ら主体的に関わらざるを得ないのではなかろうか。一般的なITリテラシーを持つ人々でも、自分や自分が属する組織に特化した生成AIを主体的に開発・育成できる仕組みが必要となる。生成AIが次のステージへと進展する重要な転換点を迎えている。

 重要なのは、「自分たちの仕事で使うAIは、自分たちで育てる」という意識を持つことだ。専門家には、あくまで技術的な基盤構築や高度な微調整、困ったときの相談役といった役割を頼むだけにとどめ、自分たちはLLMに何を学習させ、どのように応答させたいか教えるという役割を担うとしよう。この役割分担こそが、プライベートLLM導入を成功させるかぎとなる。

 AIはもはや一部の専門家だけが扱う特別な技術ではない。現場の誰もが主体的に関わり、使いこなしていくべきツールだ。専門家との適切な協働体制を築き、現場主導でプライベートLLMを導入・育成していくことが、組織が競争優位性を確保するための重要な礎となる。

 
株式会社SENTAN 代表取締役 松田利夫
松田 利夫(まつだ としお)
 1947年10月、東京都八王子市生まれ。77年、慶應義塾大学工学研究科博士課程管理工学専攻単位取得後退学。東京理科大学理工学部情報科学科助手を経て、山梨学院大学経営情報学部助教授、教授を歴任。90年代に日本語ドメインサービス事業立上げ。以降ASP、SaaS、クラウドの啓蒙団体設立に参加。現在、「一般社団法人 みんなのクラウド」の理事を務める。
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