視点

「SXSW2025」から見るテクノロジーの潮流

2025/04/09 09:00

週刊BCN 2025年04月07日vol.2054掲載

 米テキサス州オースティンで開催された世界最大級のテクノロジーカンファレンス「SXSW 2025」。今年の展示や議論から見えてきたのは、テクノロジー産業における明確な価値観の転換だ。

 特に印象的だったのは、AIの位置付けの変化である。これまでの「人間の代替」という文脈から「人間との共創」へと大きくかじを切った。クリエイティブ産業では、AIを「脅威」としてではなく、人間の創造性を増幅させる「パートナー」として捉える視点が主流となっている。米Adobe(アドビ)が発表した新製品「Creative Cloud 2025」は、AIアシスタント「Firefly」を大幅に進化させ、クリエイターの思考プロセスに寄り添う「共創パートナー」として機能する。

 エンターテインメント分野では、AIによる高度なパーソナライゼーションが登場。米Netflix(ネットフリックス)とスウェーデンSpotify Technology(スポティファイ・テクノロジー)が共同開発した「Mood Match」が注目を集めた。視聴者の感情状態を理解し、映像とサウンドを融合させた没入型コンテンツを提供する試みだ。

 同時に、テクノロジーの社会的責任も重要なテーマとして浮上した。気候変動対策やカーボンニュートラルの実現に向け、量子コンピューティングやAIを活用した革新的なソリューションが注目を集めた。

 テクノロジーのインクルーシビティー(包摂性)の向上では、高齢者や障がい者など、これまでテクノロジーの恩恵を十分に受けられなかった層への配慮が製品開発の重要な要素として位置付けられている。米Google(グーグル)の「Project Accessibility」は、視覚や聴覚に障害のある人のAI支援技術をスマートグラスやイヤーピースに統合。米Apple(アップル)の「Universal Control 2.0」は、高齢者でも直感的に操作できるインターフェースを実現している。

 こうした変化の根底にあるのは「技術のための技術」から「人間のための技術」への転換だ。今後もAIと量子コンピューティングの融合など技術的なブレークスルーは続くだろう。その方向性は明確に「人間中心」にシフトしている。

 私たちは今、テクノロジーの新しい黄金期の入り口に立っているのかもしれない。技術の進歩と人間社会の調和的な発展が実現する、かつてない時代の幕開けとなるはずだ。先進企業の取り組みが、未来への第一歩を示している。

 
事業構想大学院大学 教授 渡邊信彦
渡邊 信彦(わたなべ のぶひこ)
 1968年生まれ。電通国際情報サービスにてネットバンキング、オンライントレーディングシステムの構築に多数携わる。2006年、同社執行役員就任。経営企画室長を経て11年、オープンイノベーション研究所設立、所長就任。現在は、Psychic VR Lab 取締役COO、事業構想大学院大学特任教授、地方創生音楽プロジェクトone+nation Founderなどを務める。
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