視点

IT企業の頼りなさがユーザー企業の内製を加速させる

2025/03/19 09:00

週刊BCN 2025年03月17日vol.2051掲載

 ユーザー企業によるシステム内製化の動きが加速している。その背景には、IT企業に抱く「頼りなさ」があるのではないか。

 ユーザー企業は、変化の激しいビジネス環境への迅速な対応を求め、自社内での即断即決と実行能力を重視する。対照的に、多くのIT企業は依然として個別見積もりと交渉による受託開発を好む。

 また、ユーザー企業はビジネス目標に合致した最新技術を志向する一方で、IT企業はリスク回避と安定的な収益確保のため、枯れた技術や既存技術の流用を優先する。ユーザー企業にとって技術は競争力の源泉だが、IT企業にとっては収益維持の手段であるとの認識の差がある。

 さらに、ユーザー企業は自社の業務知識を生かす最適な技術選定を望むが、IT企業は仕様書に基づいたシステム構築を偏重し、業務知識や技術選択肢が不足している。

 ビジネスモデルにおいても、ユーザー企業はITを前提とした事業変革や業務プロセス最適化を目指すが、IT企業は工数やカスタマイズ需要の創出に目が向く。このような意識のかい離が、ユーザー企業を内製化へと駆り立てる要因となっている。

 アジャイル開発やDevOpsは内製化の前提であり、ユーザー企業はビジネス成果を最大化するために最適な技術を求める一方、IT企業がウォーターフォール開発や旧来の技術に固執すれば、ユーザー企業はIT企業に相談すること自体を諦めてしまう。

 IT企業も内製化支援やDXコンサルをうたうが、IT企業の従業員がコンテナやサーバーレス、マイクロサービス、SRE(Site Reliability Engineering)といった基本的な用語を知らないのでは話にならない。DXを推進すると言いながら、このような有様ではユーザー企業からの信頼を損なうのは仕方がない。

 古いエンジンでは最新の飛行機は飛ばせない。時代に合ったエンジンが不可欠だ。そのためには、従業員の自助努力だけでなく、組織全体で知識を共有し議論できる環境、つまり心理的安全性の確保は不可避だ。経営者は言葉だけでなく、組織体制や評価制度を通じて変革を促進すべきだ。

 いまやDXは競争力強化のかぎとなる。IT企業は顧客のDXを語る前に、まず自社のDXに向き合うべきだろう。

 
ネットコマース 代表取締役CEO 斎藤昌義
斎藤 昌義(さいとう まさのり)
 1958年生まれ。日本IBMで営業を担当した後、コンサルティングサービスのネットコマースを設立して代表取締役に就任。ユーザー企業には適切なITソリューションの選び方を提案し、ITベンダーには効果的な営業手法などをトレーニングするサービスを提供する。
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