視点

AIとXRが描く、テクノロジーの新時代

2025/02/12 09:00

週刊BCN 2025年02月10日vol.2047掲載

 昨今のAI技術の進化は、私たちの想像をはるかに超えるスピードで進んでいる。「ChatGPT」に代表される生成AIの台頭は単なる技術革新にとどまらず、私たちの働き方や生活様式を根本から変えつつある。そして今、このAI革命に新たな波が加わろうとしている。それが、米Google(グーグル)が開発を進める「Android XR」だ。XRとは、拡張現実(AR)や仮想現実(VR)を包含する次世代技術を指す。スマートフォンに続く、次世代のコンピューティングプラットフォームとして期待されている。

 AIとXRの融合は、これまでにない可能性を秘めている。例えば、仮想空間での会議では、AIが参加者の表情や声のトーンを分析し、リアルタイムで最適なコミュニケーションを支援する。教育現場では、生徒一人一人の理解度に合わせて、AIが個別最適化された学習コンテンツを空間に展開する。医療分野では、AIによる診断支援とXRによる可視化が組み合わさり、より精密な治療が可能になるだろう。特筆すべきは、AndroidというオープンプラットフォームがXRデバイスの基盤となることだ。スマホ市場で圧倒的なシェアを持つAndroidのエコシステムは、開発者にとって魅力的な環境を提供する。これにより、多様なアプリケーションやサービスが生まれ、XR市場の急速な成長が期待できる。しかし、プライバシーの保護、セキュリティーの確保、デジタルデバイドの解消など、社会的な課題に真摯に向き合う必要がある。技術の発展に伴い、倫理的な議論も重要になってくるだろう。

 企業は、これらの課題に正面から取り組みながら、技術革新を推進していく責任がある。AIとXRの融合は、単なる利便性の向上だけでなく、人々の創造性を解放し、新たな可能性を切り開くものでなければならない。

 今、私たちは技術革新の大きな転換点に立っている。AIとXRの融合は、デジタルとフィジカルの境界を曖昧にし、まったく新しい体験や価値を生み出すだろう。この変革の波に乗り遅れることなく、むしろ積極的に活用していくことが、企業の成長戦略として不可欠だ。

 テクノロジーの進化は、時として予測不可能な方向に進むことがある。しかし、それは同時に大きな機会でもある。まずはトライしてみてほしい。そしてどのように適用できるかを妄想し続けることが大切である。

 
事業構想大学院大学 教授 渡邊信彦
渡邊 信彦(わたなべ のぶひこ)
 1968年生まれ。電通国際情報サービスにてネットバンキング、オンライントレーディングシステムの構築に多数携わる。2006年、同社執行役員就任。経営企画室長を経て11年、オープンイノベーション研究所設立、所長就任。現在は、STYLY 取締役COO、事業構想大学院大学特任教授、地方創生音楽プロジェクトone+nation Founderなどを務める。
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