視点

「うちはITわからない」をなくすため

2025/01/08 09:00

週刊BCN 2025年01月06日vol.2043掲載

 コロナ禍に見舞われてからのこの5年間で、国内におけるIT導入は急速に進展した。それ以前もIT業界の中ではDXがバズワードになってはいたが、社会全体のデジタル化は遅々として進まなかった。しかし、パンデミックは過去十数年分の変化に匹敵する働き方や生活様式の転換を私たちに強制した。ITと無縁でいられる組織は既に存在しない。

 とはいえ、変革の度合いはまだら模様だ。情報処理推進機構の報告書「DX動向2024」によれば、2024年時点で従業員数1001人以上の企業の96.6%がDXに取り組んでいるのに対し、100人以下の企業では44.7%にとどまっている。また、金融や製造ではDXに積極的な企業が多い一方、サービス業は出遅れている傾向も見られる。総じて、テクノロジーによる業務改革を本来進めるべき、生産性に課題があるとされる企業や業種ほど、DXには消極的なようにみえる。

 IT導入が進んでいない企業の経営者は、「そういうのを入れたらいいのかもしれないけど、うちはITのことはよくわからないから」と言う。確かにITは専門的で難しいし、ITを本業としない人に「知識を学べ」と強いるのも良くないだろう。

 ただ、企業経営においては、難しいことを避けて通れないのは当然だ。金融の知識がない経営者も資金繰りには頭をひねるし、労働法規や業界ごとの規制・安全基準は、守らなければ事業自体を営めない。セキュリティーの観点で言えば、どのような会社でも、防犯カメラを取り付けたり、損害保険に入ったりしている。専門家でなくても専門的な課題に取り組むのは当たり前のはずなのだが、話題がITに及んだ瞬間に、「うちはわからない」の思考停止に陥ってしまう。

 私たちIT業界の人間はもちろん、提供する製品やサービスが顧客の競争力強化につながると信じているし、人口減少が日本の切実な課題である以上、その解決にはテクノロジーの活用以外に道はないという危機感がある。しかし、日本の社会全体をみると、ITを“避けて通れる”領域だと思っている人が、まだまだ多いのではないか。

 ITが難しくてわからないなら、それを任せられるベンダーの活躍の余地は大きいはずだ。後は、丸投げされた要求に応えるだけでなく、経営者と同じ方向を向いて課題を解決できるかだ。ITはすべての組織にとって避けて通れない領域という感覚を共有できるよう、私たちには社会に対する説明と情報発信がますます求められている。

 
週刊BCN 編集長 日高 彰
日高 彰(ひだか あきら)
 1979年生まれ。愛知県名古屋市出身。PC情報誌のWebサイトで編集者を務めた後、独立しフリーランス記者となり、IT、エレクトロニクス、通信などの領域を取材。2015年にBCNへ入社し、「週刊BCN」記者、リテールメディア(現「BCN+R」)記者を務める。本紙副編集長を経て、25年1月から現職。
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