視点

言葉の営みから考えるLLMの用途

2024/12/18 09:00

週刊BCN 2024年12月16日vol.2041掲載

 私たちは自然言語、すなわち言葉を通じて情報を受け取り、それを理解し、再構成することで新たな知見や表現を生み出し、それを他者に伝える営みを日々繰り返している。この営みは、学びの原点であり、また政や商いを成す根幹でもある。私たちは、他者の言葉を聞き、それを解釈し、自分の考えを形成する。そして、その考えを言葉として表現することで、他者との交わりや行動の変革を実現している。つまり、言葉は人間の日々の活動を支える道具であり、社会を成り立たせる最も重要な基盤と言えよう。

 昨今、はやりの生成AI、特にその中核を担う大規模言語モデル(LLM)は、この言葉を通じた活動を、いまだ完璧とは言い難いが、極めて高度に模倣するものと捉えることができる。人間が日々積み重ねる「読み、聞き、考え、話し、書く」というプロセスを、膨大なデータの学習を経て再現し、それを驚くべき速度と精度で実現するのである。

 例えば、大量の文章を瞬時に分析し、要約できる。また、複雑な問いに対して、関連する情報を織り交ぜながら的確な答えを提供する能力も備える。人間の言語活動を効率化し、拡張する可能性を持つ技術は、これからの世の中を変革する大きな力となるに違いない。このような視点に立てば、この技術を生かすべき道は自ずと見えてくる。

 この技術を過度に神格化してはならない。LLMが成し得ることは、結局のところ人間の言語活動を支援し、加速することに過ぎない。私たちの言語能力では足りない部分をLLMが補い、私たちがより創造的な活動や意思決定に集中できる環境をつくり出すことが本質的な目的である。行政における膨大な文書の整理や要約、商業における顧客対応の自動化、教育における個々の資質に応じた導きなど、言語処理という視点に立つだけでも、その応用範囲は限りなく広い。

 私たちの営みに真の変革をもたらすためには、単に機能的な利用ばかりでなく、言葉を通じた人間の本質的な営みへの理解を深め、それを補完するかたちで活用する必要がある。私たちが言葉を通じて築き上げてきた社会の仕組みや知識の共有をさらに広げ、深化させることが求められているのである。このような視点に立つことができれば、LLMは私たちの学びと営みを一層豊かなものにしてくれるに違いない。

 
株式会社SENTAN 代表取締役 松田利夫
松田 利夫(まつだ としお)
 1947年10月、東京都八王子市生まれ。77年、慶應義塾大学工学研究科博士課程管理工学専攻単位取得後退学。東京理科大学理工学部情報科学科助手を経て、山梨学院大学経営情報学部助教授、教授を歴任。90年代に日本語ドメインサービス事業立上げ。以降ASP、SaaS、クラウドの啓蒙団体設立に参加。現在、「一般社団法人 みんなのクラウド」の理事を務める。
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