視点

イマーシブ技術が変える体験経済

2024/12/11 09:00

週刊BCN 2024年12月09日vol.2040掲載

 拡張現実の世界がエンタメに取り入れられる実例が多くなってきた。2024年3月にオープンしたイマーシブ・フォート東京は、物語の当事者となってさまざまな出来事を体験できる「イマーシブ体験」のみで構成されたテーマパークで、徹底して体験に没入できる場所となっている。また、各地で開催され話題のイマーシブミュージアムは、世界的に有名な芸術作品を映像コンテンツ化して、広大な屋内空間の壁面や床面を埋め尽くす映像と音響体験を提供するアートエキシビションであり、没入体験ミュージアムといえる。

 このような体験型施設は、かつて各地に作られたVR体験を軸にした施設と何が違うのか。当時、VR体験施設は開発費用がかかる割に、体験者がヘッドマウントディスプレイ(HMD)を装着する必要があるため、一度に体験できる人数が少なく、採算を取ることが難しいといわれていた。一方、イマーシブ・フォート東京やイマーシブミュージアムは、HMDは使わず、プロジェクターや設備によって没入体験をつくる方法で、一つのアトラクションで1時間に100人以上の体験者を実現し、事業として成り立たせている。

 しかし、「HMDを使う施設は収支が成り立たない」との定石をくつがえす施設が多く登場してきている。東京ドームにリニューアルオープンしたSpace Travelium TeNQは、アトラクションではなく宇宙博物館であり、一つの場所に同時に50人以上が滞在し、それぞれ別の体験をするという構成で1日に1000人の対応を可能とした。また、横浜に開業する大型XRエンターテインメント施設「IMMERSIVE JOURNEY」は、映画館のように通えるVR体験施設を目指している。

 どちらも、これまでのVR施設では達成しにくかったが、大勢がHMDを被って体験することが可能になったことで、ビジネスとして成り立つようになったといえるだろう。それはコンテンツの変化によるものも大きい。美術館のように各自が自由にコンテンツを楽しむことが可能で、提供者側が用意したスピードではなく自分自身のペースでコンテンツを体験できるようになったことだ。

 「体験を探索する」ような施設が誕生してくるのは、VR技術の進化だけでなく、みんなで体験を共にする文化や、自分だけの体験を追求する文化が主流になってきたことも要因だ。イマーシブな体験はますます増えていくことだろう。

 
事業構想大学院大学 教授 渡邊信彦
渡邊 信彦(わたなべ のぶひこ)
 1968年生まれ。電通国際情報サービスにてネットバンキング、オンライントレーディングシステムの構築に多数携わる。2006年、同社執行役員就任。経営企画室長を経て11年、オープンイノベーション研究所設立、所長就任。現在は、STYLY 取締役COO、事業構想大学院大学特任教授、地方創生音楽プロジェクトone+nation Founderなどを務める。
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