視点

マイクロLLM導入の薦め

2024/10/23 09:00

週刊BCN 2024年10月21日vol.2034掲載

 生成AIが大流行する中で、AI技術の進化が企業の競争力を左右する時代が間近に迫っていると感じている方は、どれほどいるのだろうか。大規模言語モデル(LLM)の活用が、ビジネスにおける意思決定や情報処理で大きな価値を発揮することは既に事実として認識されている。ただ、全社で統一されたモノリシックなLLMを導入すると、各部門や業務ごとの多様なニーズに対応することは難しい。企業がLLMを活用し持続可能な成長を遂げるためには、より柔軟なマイクロLLMの導入に着眼する必要がある。

 マイクロLLMは、部門や業務ごとのニーズに合わせてカスタマイズが可能なモデルである。営業部門は顧客対応に特化したLLM、法務部門は契約書の自動作成に適したLLMなど、それぞれの専門分野に最適化されたLLMを開発し、活用するという考え方である。組織の成長や市場の変化に伴って、必要な部分だけを迅速に更新、調整できる柔軟性も備えている。

 マイクロLLMはシステム設計効率の面でも優れた利点がある。全社的な一つの巨大なモノリシックLLMを設計、構築する複雑さ、難易度の高さに比べ、特定のドメインや機能に特化したマイクロLLMは、比較的容易に短期で開発できよう。部門ごとに独立したLLMを持つことで、データ管理のセキュリティーも強化され、機密性の高いデータの取り扱いでリスクを低減できる。

 LLMを効果的に活用するためには、組織内のデータを集約し、統合的に管理するデータ管理体系の整備が不可欠である。高品質なデータセットの作成やクリーニングを通じて、LLMの精度と信頼性を高めることができる。適切なデータ管理が整っていれば、企業はより迅速で的確な意思決定をサポートするLLM環境を構築できるだろう。

 マイクロLLMの導入は、専門性の追求、柔軟性、セキュリティーといった多くの利点を提供し、企業の競争力をさらに強化する。未来の組織改革を目指し、データ管理の基盤を整えつつ、マイクロLLM導入を検討することが、持続可能な成長への第一歩となるであろう。

 ただ、マイクロLLM導入の最大の障害は、それを運用管理する人的資源の欠如である。その問題を克服するには、自分たちで人材を育成し、自分たちで運用管理できるような体制を組む以外にない。

 
株式会社SENTAN 代表取締役 松田利夫
松田 利夫(まつだ としお)
 1947年10月、東京都八王子市生まれ。77年、慶應義塾大学工学研究科博士課程管理工学専攻単位取得後退学。東京理科大学理工学部情報科学科助手を経て、山梨学院大学経営情報学部助教授、教授を歴任。90年代に日本語ドメインサービス事業立上げ。以降ASP、SaaS、クラウドの啓蒙団体設立に参加。現在、「一般社団法人 みんなのクラウド」の理事を務める。
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