視点

「拡張現実」から「人間拡張」へ

2024/10/16 09:00

週刊BCN 2024年10月14日vol.2033掲載

 拡張現実の世界が、AIを手に入れて新たな局面を迎えようとしている。「これまで『ChatGPT』を使ったことある」という問いに、対話型検索ツールとして使ったことがあるという人は多いが、まだまだ自分の生活にどう生かすことができるのか想像できない人が多数だ。

 私も日常の仕事が便利になってきたことは痛感しているが、あくまでもそれはPCやスマートフォンを操作している場合の効率化という観点だった。その体験は想像の範囲を超えておらず、「まあ便利かな」という感じでしかなかったが、空間コンピューターがマルチモーダルAI(テキストや画像、音声、動画、センサー情報などを組み合わせたり、お互いに関連付けたりして処理することができるAI)と接続され、リアルタイムに処理される世界は、ライフスタイルを大きく変化させると確信した。

 弊社STYLYが搭載するマルチモーダルAIを活用すると、「Apple Vision Pro」からインプットされた映像、音声、空間情報がリアルタイムにAIで処理され適切な回答が返ってくる。海外旅行に行って現地語が全くわからない街中でも、「ここはイタリアンレストランで、評判の料理は・・・値段は手頃だし、苦手な辛い料理も少ないからおすすめだよ」と、即座にアドバイスをしてくれる。

 アプリで翻訳し、検索エンジンで調べるというこれまでの方法でも、できないことではなかった。ただ、翻訳して検索するという作業が入るだけで日常使いにはならない。例えば見慣れないセキュリティーボックスがあったとして、これも型番を調べて取扱説明書を検索、それを翻訳して読む、ということをすれば使い方は分かるだろう。

 しかし空間コンピューターにマルチモーダルAIが結びつくと「このボックスの使い方教えて」とか「暗証番号の変えかた教えて」と問いかけるだけで画像から型番を調べ、説明書の中身を理解し、どうすればよいかを答えてくれる。この快適さは革命である。

 もう一つのケースをご紹介しておこう。海外の展示会にいくときに事前調査しておかないと効果半減なのだが、サイトのURLと気になるブースの資料を読み込ませておけば、ブースに行くとどんなサービスを提供しているのか、自分にとってどう有益なのか、などを会話形式で教えてくれる。いよいよ人間の作業はぐっと減る人間拡張の未来が見えてきた。

 
事業構想大学院大学 教授 渡邊信彦
渡邊 信彦(わたなべ のぶひこ)
 1968年生まれ。電通国際情報サービスにてネットバンキング、オンライントレーディングシステムの構築に多数携わる。2006年、同社執行役員就任。経営企画室長を経て11年、オープンイノベーション研究所設立、所長就任。現在は、STYLY 取締役COO、事業構想大学院大学特任教授、地方創生音楽プロジェクトone+nation Founderなどを務める。
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