視点

世界に広がるインド人材

2024/10/09 09:00

週刊BCN 2024年10月07日vol.2032掲載

 今、インドの若者は日本だけでなく世界各国のITや宇宙開発などハイテク分野で大活躍している。特に米国での立ち位置は大変強固で、GAFAMなどのテック企業は彼らの力を借りない限り前に進めないほどだ。これらの企業は経営陣や最先端技術の現場まで、主要な部署にはインド人が名を連ねる。インド人が経営トップに立っている企業も少なくない。もはや彼らがいなければ米国の産業は成り立たない状況になっている。

 中国が経済成長を遂げることのできた大きな要因が、3億人と言われる地方出身の農民工(農村戸籍の労働者)の存在である。彼らは農村から都会に出稼ぎにきて工場で働いた。勤勉なうえハングリーで、極めて低コストであったことが中国を世界の工場へと押し上げ、米国に次ぐ世界第2位の経済大国をつくり上げた。

 中国からインドに経済の基軸が移るにしても、このものづくりの機能がうまく移転するわけではない。インドの工場のワーカーレベルは、残念ながら中国に比べるとまだかなり見劣りがする。さらに製造業に欠かせない道路や鉄道、電力、物流などのインフラがハード、ソフトともまだ十分に整っていない。

 製造業よりもソフトウェアやシステムの開発を得意とする彼らは、今後、世界の開発拠点として動いていくと思われる。産業の主軸が自動車などの製造業から、生成AIや自動運転などのテック産業に移る今、まさにインド人にとってはちょうど良い環境になってきた。世界のIT産業化の加速とインド経済の台頭がピタリと合っているためだ。

 国内に23校あるインド工科大学などレベルが高い教育機関だけが人材の源泉なのではない。インドに行くと分かるが、小さな商店や街の屋台に至るまで彼らはほとんど電卓を使わないで、すらすら計算してしまう。これまで彼らの多くは貧しく高等教育などを受けられなかったが、少しずつだが環境は好転しつつある。インド経済が豊かになるにつれて、良質なIT人材の供給は一段と増えていくだろう。

 現在、世界で活躍するインドにルーツを持つ在外インド人である印僑は約3000万人で、世界各国へのIT人材の展開は新印僑を思わせる。東京都江戸川区のようなインド人が住む街が世界中にできあがり、インドのカレー店が並ぶ日もそう遠くはなさそうである。

 
アジアビジネス探索者 増田辰弘
松田 利夫(まつだ としお)
 1947年9月生まれ。島根県出身。72年、法政大学法学部卒業。73年、神奈川県入庁、産業政策課、工業貿易課主幹など産業振興用務を行う。01年より産能大学経営学部教授、05年、法政大学大学院客員教授を経て、現在、法政大学経営革新フォーラム事務局長、15年NPO法人アジア起業家村推進機構アジア経営戦略研究所長。「日本人にマネできないアジア企業の成功モデル」(日刊工業新聞社)など多数の著書がある。
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