視点

最後の紙幣改刷になるか

2024/10/02 09:00

週刊BCN 2024年09月30日vol.2031掲載

 日本銀行は2024年7月3日、20年ぶりに一万円、五千円、千円の3券種を改刷した。翌4日から流通し始めたので既に手にした方も多いであろう。

 新しいデザインにした理由を日本銀行では、偽札防止と紙幣制作の技術伝承のためとしている。偽造技術が進むとそれに追いつかれないように最新の偽造防止技術を組み込む。紙幣の信頼性を保つためには重要な行為だ。

 日本銀行の統計によると、日本銀行券(紙幣)の発行高は24年6月末時点で118兆9098億円であった。日本銀行券の発行高は、世の中でどれだけ銀行券に対する需要があるかによって決まる。1953年1月末の統計開始以来増加傾向にあった発行高は、23年12月末をピークに減少傾向を示している。

 海外に目を向けると、キャッシュレス化の波は急速に進んでいる。30年までに現金の使用を完全に廃止することを目指しているフィンランドを始めとして、スウェーデンやノルウェーなど北欧が先行している。

 24年6月末に韓国・ソウルに行ってきた。市内を走るバスは23年5月1日から支払いにキャッシュは使えなくなっている。交通系カードを買い、駅やコンビニでチャージして使う。使い方は日本の交通系カードと変わらない。

 日本は現金だけから交通系カードの併用も可能になり、最近はクレジットカードも使えるようになっている。現金払いの乗客は乗車券を取っている。人手不足と言われるバスの運転手は精算業務にも一苦労だ。

 全面キャッシュレス化はお年寄りにとって難しいという意見もあるが海外の方の対応を見ていると、そうでもないことがわかる。

 データを基にした交通政策を行う意味でも、運転手の工数を省力化するためにも、日本でもキャッシュレスを早く導入すべきだ。キャッシュで払うことの付加価値はない。

 全面キャッシュレス化には政治の決断が必要である。30年が難しいのであれば、24年から10年後の34年でも良い。期限を設けて日本もキャッシュレス社会に移行しよう。そうなると、今回の紙幣の改刷は最後になるかもしれない。

 
サイバー大学 IT総合学部教授 勝 眞一郎
勝 眞一郎(かつ しんいちろう)
 1964年2月生まれ。奄美大島出身。98年、中央大学大学院経済学研究科博士前期課程修了。同年、ヤンマー入社、情報システム、経営企画、物流管理、開発設計など製造業全般を担当。2007年よりサイバー大学IT総合学部准教授、12年より現職。総務省地域情報化アドバイザー、鹿児島県DX推進アドバイザー。「カレーで学ぶプロジェクトマネジメント」(デザインエッグ社)などの著書がある。
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