視点

デジタル社会の実現に近づくように

2024/09/11 09:00

週刊BCN 2024年09月09日vol.2029掲載

 数カ月前に引っ越しの手続きで役所を訪れた。「マイナポータル」を通じてオンラインで転出届を提出していたが、転入するためには窓口に行く必要があったからだ。来庁予約をした上で、混雑を避けるために開庁時間の午前8時半過ぎに到着したが、既に何人か先に手続きに入っていた。

 これまでに何度か引っ越しを経験したが、窓口を順番に回るのは今も変わらず。それぞれの窓口で自分の順番が呼ばれるのをただひたすら待つ時間は、はっきり言って苦痛でしかなかった。デジタル庁はHPで、転入手続きを対面で行う理由について「転入届出者の実在性・本人性を厳格に確認することが不可欠」などと説明している。

 マイナンバーカードによって、行政サービスの利便性が向上した面は確かにある。しかし、まだ旧態依然とした部分は残っている。デジタル庁の言い分は理解できるが、それでも何とかできないものかと思う。働いている職員の立場からしても、オンラインで完結できれば業務の効率は上がり、本来考えるべき住民へのサービスのために人や時間をより振り向けられるようになるだろう。

 デジタル庁は8月30日、2025年度予算の概算要求を公表した。要求額は、24年度当初予算比約20%増の5960億4300万円。各省庁の情報システムの整備・運用費がほとんどを占めるが、マイナカードの利便性向上・利活用シーンの拡大のさらなる推進などを目指す経費として4億1000万円も計上した。

 概算要求は、政府が6月に閣議決定した「デジタル社会の実現に向けた重点計画」と「国・地方デジタル共通基盤の整備・運用に関する基本方針」に基づく施策を推進するために必要な費用が盛り込まれている。同計画には「引っ越し手続のデジタル化のさらなる推進とデジタル完結の検討」の項目もあり、将来的に窓口に行かなくても手続きができるようになるかもしれないと期待が膨らむ。

 これらの計画や方針には、さまざまな内容が含まれており、どれを優先的に進めるかは現時点では分からない。とはいえ、これまで当たり前とされてきたことを変革し、より便利になっていくことには大いに期待している。予算編成の作業が本格化するのはこれから。限りある財源を有効に活用し、デジタル社会の実現に一歩でも近づくようにしっかりと議論してもらいたい。

 
週刊BCN 編集長 齋藤 秀平
齋藤 秀平(さいとう しゅうへい)
 1984年4月生まれ。山梨県甲州市出身。2007年3月に三重大学生物資源学部共生環境学科を卒業。同年4月に伊勢新聞社(津市)に入社し、行政や警察、司法などの取材を担当。16年4月にBCNに入社。リテール業界向け媒体の記者を経て、17年1月から週刊BCN編集部に。上海支局長を務め、22年1月から現職。旧姓は廣瀬。
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