視点

データセントリックな生成AI導入戦略

2024/08/28 09:00

週刊BCN 2024年08月26日vol.2027掲載

 公私を問わず、組織における生成AIの導入が急速に進み始めたようだ。その多くは業務の効率化や人手不足の補完、あるいは生産性向上をうたったものである。

 実際、生成AIソリューションと称するものの多くが特定の作業や業務に特化し、パブリックAIサービス基盤上に構築されたものだ。このようなものをバラバラに導入すると、組織内に異なる生成AIがいくつも共存することになってしまうが、果たしてそれで良いのだろうか。

 特定の作業や業務に焦点を当てた生成AIの導入は、当該業務の局所的な最適化を目指すものだ。このようなアプローチを取ってしまうと、複数の異なる生成AIソリューションが組織内で共存することになり、生成AIの糧であるデータが散在し、統合的なデータ活用が困難になる懸念がある。また、個々の生成AIの管理やメンテナンスも別々のベンダーに頼ることになり、なかなか煩雑な利用環境となる可能性があることは否めない。局所的な最適化に気を取られてしまうと、全体的な最適化を見失うことになる懸念さえある。

 そこで生成AIの導入を考える際、業務効率化からデータに視点を変えてみてはどうだろう。組織内に存在するあらゆるデータを生成AIにトレーニングさせ、生成AIに組織の全体像を把握させる。そして、組織内データに基づいた問題点を生成AIに指摘させることで、その戦略的な適用へと導いてもらう考え方だ。

 組織全体のデータを一元的に管理し生成AIにトレーニングすることで、組織の全体像が明らかになる。そして、生成AIの分析結果を基に組織内の問題点や改善点を特定させる。このようにトレーニングデータの管理体系を整備できれば、どの業務に生成AIを適用するかを戦略的に判断できるようになる。

 データセントリックな生成AI導入には多くのメリットがある。まず、全社的なデータ統合で、より効果的な意思決定が可能となる。また、重複投資やリソースの無駄を避け、コスト削減が実現できる。このように統合されたシステムの管理は効率的であり、IT部門の負担も軽減される。

 生成AIトレーニングデータセットの管理を担うべきは誰かを導入前にしっかりと考え、体制を整えることこそ肝要ではなかろうか。

 
株式会社SENTAN 代表取締役 松田利夫
松田 利夫(まつだ としお)
 1947年10月、東京都八王子市生まれ。77年、慶應義塾大学工学研究科博士課程管理工学専攻単位取得後退学。東京理科大学理工学部情報科学科助手を経て、山梨学院大学経営情報学部助教授、教授を歴任。90年代に日本語ドメインサービス事業立上げ。以降ASP、SaaS、クラウドの啓蒙団体設立に参加。現在、「一般社団法人 みんなのクラウド」の理事を務める。
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