視点

スマホがなくなる日

2024/08/14 09:00

週刊BCN 2024年08月12日vol.2026掲載

 私事だが、20年にわたって追い続けている内容をまとめた「スマホがなくなる日」という書籍を6月26日に出版させていただいた。この書籍では、現実とデジタルが混在し、違和感なく過ごせる生活が、空間コンピューターの出現によって、そろそろやってきそうだという未来を予測した。そして、インターネット革命の時のように遅れをとってしまいそうな日本の現状に警鐘を鳴らさせていただいた。

 相場の格言で「もうはまだなり まだはもうなり」というものがあるが、まさにその状態なのだ。多くの人は空間コンピューターを身につけて過ごす未来がくるなんてありえないと思っているだろうし、いつかくると思っていても、まだだろうと思っているのが現状であろう。

 ところが世界を見ると、1企業が兆円単位で投資を行い、次のマーケットをとるためのバトルが始まっている。少し前までは「それはメタバースでしょ?」と思われていたかもしれないが、今や空間コンピューターはAIと接続されることによって空間のどこでもコンピューターやAIにアクセスできるインターフェースと捉えられるようになり、一気に注目度が高まっているのだ。仮にスマートグラスが日常的になり、そこにマルチモーダルAIが接続されたら、グラスをかけて街を歩くだけで、言語の壁を超えて分からないこと、お薦めの店を瞬時に答えてくれるのだ。

 例えば、海外に行って空間コンピューターに接続されたグラスをかけて看板を数秒見つめるとAIに接続され、その店のお薦めや評価を母国語で答えてくれたり、海外のATMなど操作方法が分からない時も見つめるだけで操作方法を声で教えてくれたりすることが可能だ。この便利さは大きな変革を起こすことは確実だ。自動翻訳機がいまいち普及しない理由は、翻訳ボタンを押したり、翻訳までの時間がちょっと長かったりと、利用できる機能として挙げることは変わらなくても、微妙にライフスタイルに溶け込むかたちになっていないからだ。常時起動されていて、簡単な言葉の指示で翻訳だけでなく内容まで解説してくれるとしたら、活用シーンはかなり増えるだろう。

 今後は常にスマートグラスをつけていたほうが便利で快適だ、というアプリケーションの出現が予想される。それが日常化したとき、私たちは「スマホがなくなる日」を迎えることになりそうだ。

 
事業構想大学院大学 教授 渡邊信彦
渡邊 信彦(わたなべ のぶひこ)
 1968年生まれ。電通国際情報サービスにてネットバンキング、オンライントレーディングシステムの構築に多数携わる。2006年、同社執行役員就任。経営企画室長を経て11年、オープンイノベーション研究所設立、所長就任。現在は、Psychic VR Lab 取締役COO、事業構想大学院大学特任教授、地方創生音楽プロジェクトone+nation Founderなどを務める。
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