視点

日の丸半導体の抱える課題

2024/08/07 09:00

週刊BCN 2024年08月05日vol.2025掲載

 私の友人が、半導体メーカーのRapidus(ラピダス)に入社した。「おめでとう」とは言ったものの、同社を巡る経営環境は厳しく、複数の専門家が疑問符をつけている。

 1980年代、日本は半導体王国で世界市場の過半を押えていた。日本のDRAMは大型コンピューターのメインフレームに対応した25年保証で超高品質なので、他を寄せ付けない強さがあった。しかし、時代はパラダイムシフトが起きてPCの時代となる。

 ここで日本企業は、一度定着した極限技術を追求するものづくり文化を変えられず、過剰品質、高価格で大きな赤字を生み出し、多くが撤退した。現在の日本のシェアは10%に満たない。これを挽回すべくラピダスはトヨタ自動車など日本企業8社が出資し、経済産業省が支援する国家プロジェクトとしてスタートした。

 4月に台湾側の主催で、都内のホテルで約600人を集めて台湾半導体セミナーが開催された。不思議なセミナーで、いただいたのは開催通知のみ。出席者名簿も配布資料もなく写真撮影、録音は禁止された。講演者はTaiwan Semiconductor Manufacturing Company(TSMC)などの台湾メーカーの現職、元職の経営者の方々である。

 セミナーでTSMC関係者が、「半導体事業は技術開発、事業戦略、資金調達が常に綱渡りである。現在当社には半導体技術者が海外子会社、関連会社を含めると10万人いるが、まだ数千人足りない。AIや自動車の自動運転と、続々と需要が出てくる」と話していたのが印象に残る。このセミナーは、半導体事業は気をつけないと危ないですよ、と教えてくれていたような気がした。

 ラピダスはIBMの技術を導入し、北海道千歳市にAI、自動運転などに対応する最先端の2nmプロセスの半導体工場を整備する。今後10年間で総額5兆円の投資を予定している。2025年に試作ライン、27年に量産を開始し販売する予定だが、TSMCや韓国Samsung(サムスン)はすでに2nm製品を25年から販売する予定である。

 懸念するのは、これまでの半導体にかかわる国家プロジェクト、コンソーシアム、合弁企業はことごとく失敗していることである。この反省を踏まえ、リアルビジネスの醸成、販路開拓、外国企業との連携など新しい半導体の事業モデルを構築してほしい。

 
アジアビジネス探索者 増田辰弘
増田 辰弘(ますだ たつひろ)
 1947年9月生まれ。島根県出身。72年、法政大学法学部卒業。73年、神奈川県入庁、産業政策課、工業貿易課主幹など産業振興用務を行う。01年より産能大学経営学部教授、05年、法政大学大学院客員教授を経て、現在、法政大学経営革新フォーラム事務局長、15年NPO法人アジア起業家村推進機構アジア経営戦略研究所長。「日本人にマネできないアジア企業の成功モデル」(日刊工業新聞社)など多数の著書がある。
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