視点

日本のITベンダーにアジャイル開発が根付かない理由

2024/07/24 09:00

週刊BCN 2024年07月22日vol.2023掲載

 仕様が決められない、仕様書通りにつくっても、できあがったときにはもう使えないといった状況はしばしば発生する。アジャイル開発はこの事態に対処する有効な手段だ。しかし、多くのITベンダーは、これに対応できずにいる。その理由はさまざまだが、エンジニアたちが「ソフトウェア工学」を学んでいないことに根本の原因がありそうだ。

 例えば、新人研修でプログラムコードの書き方やシステムの設定方法は教えるが、その教育に基礎となるソフトウェア工学を用いる企業はめったにない。

 世間で「優秀」と評されるエンジニアは、これを自助努力で身につけている。彼らは、新しい手段への対応を求められると、原理や原則に立ち返り、新しい手段と従来の手段との違いを迅速に把握し、容易に対応することができる。当然、アジャイル開発に対するハードルも低い。一方、従来の手段にとどまっている人たちは、この転換が容易にできない。

 アジャイル開発に取り組みたい優秀なエンジニアたちは多い。ただ、彼らは優秀なので、プロジェクトの管理に忙殺され、トラブルシューティングに駆り出され、新しいことに取り組む機会を奪われ、従来のやり方に押し込められている。これは、彼らが望む成長の機会を奪っているわけで、転職を促しているようなものだ。

 この状況を生みだしているのは、工数で稼ぐための要員を育てることが目的になっているからだ。「余計な知識の獲得に時間を割く必要はない。それよりもJavaの文法と作法を早く覚えなさい」となる。

 しかし、生成AIを使った開発ツールやクラウドサービスの充実は、工数需要の減少を加速する。この変化は、アジャイル開発を前提としたユーザー企業の内製化を後押しし、外注に頼る機会を減らす。

 このような変化に対処するには、「工数を売る」ことから「技術を売る」ことへと収益モデルの転換が必要だ。そのためには、ソフトウェア工学は必須となる。

 「工数を稼げる人材」ではなく、「次代を担う人材」を育てなくてはならない。工数需要に伸びしろがなくなりつつある今、ITベンダーにおいては人材育成のあり方も見直すべきだろう。

 
ネットコマース 代表取締役CEO 斎藤昌義
斎藤 昌義(さいとう まさのり)
 1958年生まれ。日本IBMで営業を担当した後、コンサルティングサービスのネットコマースを設立して代表取締役に就任。ユーザー企業には適切なITソリューションの選び方を提案し、ITベンダーには効果的な営業手法などをトレーニングするサービスを提供する。
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