視点

「三バン+本格的なIT活用」の時代へ

2024/07/17 09:00

週刊BCN 2024年07月15日vol.2022掲載

 東京都知事選は7月7日に投開票され、現職の小池百合子氏が3回目の当選を果たした。過去最多となる56人が立候補したほか、ポスターをめぐる一連の動きもあり、選挙自体に大きな注目が集まった。それを示すように投票率は前回を5.63ポイント上回る60.62%となった。

 選挙で当選するためには、組織を示す「地盤」と、知名度を意味する「看板」、資金力を指す「かばん」の「三バン」が必要だと言われてきた。都知事選も例外ではなく、これまでに有名人や他県の知事経験者らが、三バンを備える現職に跳ね返されてきた。今回も同様である。

 当初、小池氏と参院選(東京選挙区)で4回の当選経験がある蓮舫氏の争いに焦点が当てられていた。しかし、広島県安芸高田市長を辞して立候補した石丸伸二氏が、得票数で蓮舫氏を上回った。三バンで考えると蓮舫氏のほうが優勢と考えるのは妥当だったが、市長在任中からX(旧Twitter)やYouTubeを積極的に活用していた石丸氏は、都知事選でもインターネットを通じて動画などを拡散し、支持を拡大。歯に衣着せぬ物言いに共感する人も多くいたようだ。

 選挙経験がある候補者が争う中、初めての挑戦で一定の存在感を示した候補者もいた。東京大学工学部卒でAIエンジニアの安野貴博氏だ。陣営は、安野氏の政策を学習した「AIあんの」を使って質問に回答したほか、ITを駆使して選挙期間中に政策のアップデートを実施。さらに、新人の候補者にとって大きなハードルとなる掲示板へのポスター張りは「選挙ポスターマップ」を開発して乗り越えた。選挙戦で使ったシステムは今後、オープンソース化して誰でも使えるようにする予定という。

 2013年7月の参院選からインターネットを使った選挙運動が解禁され、候補者にとってネット戦略は当選を目指す上で欠かせなくなっている。これまでは主に有権者に主張を広く届ける意味合いで活用されてきたが、これからは、安野氏の陣営が実施した選挙の裏側をシステム化する本格的なIT活用も重要視される時代になるだろう。

 291万8015票を獲得して当選した小池氏に対し、安野氏の獲得票数は15万4638票。結果には大きな差があるものの、新しい選挙のあり方を世に示した安野氏の成果は決して小さくないと言える。

 
週刊BCN 編集長 齋藤 秀平
齋藤 秀平(さいとう しゅうへい)
 1984年4月生まれ。山梨県甲州市出身。2007年3月に三重大学生物資源学部共生環境学科を卒業。同年4月に伊勢新聞社(津市)に入社し、行政や警察、司法などの取材を担当。16年4月にBCNに入社。リテール業界向け媒体の記者を経て、17年1月から週刊BCN編集部に。上海支局長を務め、22年1月から現職。旧姓は廣瀬。
  • 1