視点

身近にあるデータから始める生成AI

2024/07/03 09:00

週刊BCN 2024年07月01日vol.2020掲載

 皆さんの周りで、生成AIへの取り組みは進んでいるのだろうか。あるいは何に使ったら良いのか迷っているのだろうか。それとも、いまだに他社の先行事例を探しているのだろうか。

 生成AIの導入を考えるとき、まずは利用目的を明確に定めなければならないと考えるのが普通だ。だが、導入目的に合ったトレーニングデータの準備に手こずり、遅々として導入が進まない状況に陥っていないだろうか。

 目的を決めるのは後回しにして、周囲に散らばっている、あるいは手に入れやすいデータに着眼し、特定の目的に固執せずに、まずは生成AIをトレーニングすることから始めてみてはどうだろうか。そして、トレーニングした生成AI自体にいろいろと尋ねながら、それが何に使えるのか模索するのだ。

 例えば、顧客の購買履歴を記録したデータがあるなら、まずそれを使って生成AIをトレーニングしてみる。そして、その生成AI自体に顧客の購買履歴からどのような情報を引き出せるか尋ねてみる。そこから、どのような情報が引き出されるかは顧客の購買履歴データの品質次第だが、うまくいけば顧客ごとにターゲティングされた販売施策を立案できるかもしれない。顧客の購入履歴などは記録していないというのであれば、取扱製品の日々の売り上げデータを曜日、販売時間、天候などと組み合わせてトレーニングデータとして使ってみることを検討すればいい。

 「必要だとは思っていたが、まだそのようなデータを収集していない」というのであれば、日々の電話の通話、SNSのチャット、メールなどのコミュニケーションデータを記録することから始めてみてはどうだろうか。これらのデータを自動的に収集し、生成AIに学習させる仕組みは容易に構築できる。コミュニケーションデータには、どんな商売でも日々の業務に関する情報がいろいろと含まれているため、生成AIに自社の業務を学習させるのに非常に有用なデータとなる。

 生成AIの導入は、最初の一歩を踏み出すことが重要である。身近なデータから始め、徐々にその活用範囲を広げていくことで、実践的な生成AI活用に取り組みやすくなる。他人の事例を待つのではなく、自分で先行事例をつくり出す気概が求められる。

 
株式会社SENTAN 代表取締役 松田利夫
松田 利夫(まつだ としお)
 1947年10月、東京都八王子市生まれ。77年、慶應義塾大学工学研究科博士課程管理工学専攻単位取得後退学。東京理科大学理工学部情報科学科助手を経て、山梨学院大学経営情報学部助教授、教授を歴任。90年代に日本語ドメインサービス事業立上げ。以降ASP、SaaS、クラウドの啓蒙団体設立に参加。現在、「一般社団法人 みんなのクラウド」の理事を務める。
  • 1