視点

デジタルアートとインバウンド観光

2024/06/26 09:00

週刊BCN 2024年06月24日vol.2019掲載

 近年、デジタルアートとインバウンド観光の相互作用が、観光業界に新たなムーブメントを起こしている。デジタル技術の進歩により、アートの表現方法が変わり、それが観光ビジネスにも新しい魅力を創出しているのだ。例えば、従来の静的なデジタル画像からインタラクティブなインスタレーションを用いた表現へと進化し、観光客はアートを体験として楽しむことができるようになった。日本発のデジタルアートミュージアム「チームラボボーダレス」は、その象徴的な例である。

 最近はアート鑑賞をメインとする観光客も多く、インバウンド観光は単なる観光名所の訪問から文化やアートを通じた深い体験型観光へとシフトしており、デジタルアートはその重要な役割を担っている。

 加えて昨今のイマーシブ(没入感)ブームにより、今後、普及が見込まれる空間コンピューティングが観光体験をさらに変革させると期待されている。空間コンピューティングは現実世界にデジタル情報を重ねることで、よりリアルでインタラクティブな体験を提供する技術で、これにより、展示物に新たな視覚的演出を加えることができる。

 例えば、文化遺産の歴史的背景や制作風景の説明をその時代に没入して体験するなど、美術館や博物館でも、これまでになかった新しいコンテンツを提供することが可能となるだろう。そして展示物のみならず風景にも情報を表示することが可能になるので、電源や表示装置を設置できない風景にデジタルアートを融合させた観光プログラムや、歴史的建造物を仮想的に復元するプロジェクトなど空間を使って演出を行うことで新体験をつくることが、ビジネスとしても盛り上がってくることが予想される。

 さらに、デジタルアートは持続可能な表現手法としても注目されており、物理的な移動を最小限に抑えつつ豊かな体験を提供することでCO2の排出抑制に貢献し、環境に負荷をかける制作物や廃棄物を出さない上に電力消費も小さいのが特徴だ。

 そして、空間コンピューターの浸透により、新しい観光体験が創出されることになればなるほど、クリエーターの存在が重要になる。世界的に人気のあるIPやキャラクターを多く輩出し、その最前線で新しい観光のかたちを創出し続けることは、次の日本をつくる軸になるであろう。

 
事業構想大学院大学 教授 渡邊信彦
渡邊 信彦(わたなべ のぶひこ)
 1968年生まれ。電通国際情報サービスにてネットバンキング、オンライントレーディングシステムの構築に多数携わる。2006年、同社執行役員就任。経営企画室長を経て11年、オープンイノベーション研究所設立、所長就任。現在は、Psychic VR Lab 取締役COO、事業構想大学院大学特任教授、地方創生音楽プロジェクトone+nation Founderなどを務める。
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