視点

赤字額の解消よりも課題解決を優先すべき

2024/05/29 09:00

週刊BCN 2024年05月27日vol.2015掲載

 先日、外資系IT企業の日本法人に勤める方と会った。本社の業績は好調に推移しており、直近の注力領域などを中心に前向きな話をたくさん聞くことができた。DX需要を背景に国内のビジネスも順調な様子で、生き生きとした表情が印象的だった。

 IT市場は、国内外で盛り上がっている。米Gartner(ガートナー)は4月に発表した予測で、2024年の世界のIT支出は前年比8%増(1月の予測では6.8%増)の5兆600億ドル(同5兆ドル)に達するとの見通しを示した。

 世界的にITへの需要が増える中、グローバルでビジネスを展開するIT企業の存在感はさらに高まっている。各地の成功事例を反映させた製品やサービスは、機能面などで高い競争力を有する。国内では、業務を効率化し、生産性を向上させる目的で導入が広がっている。

 とはいえ、外資系IT企業の台頭による国内への影響は少なくない。最近、注目されている「デジタル赤字」は代表例だ。日本の国際収支統計によると、23年の赤字額は約5兆5000億円だった。赤字幅は引き続き拡大傾向で、現状はデジタル化に伴って国内のカネが海外に流出する状況が続いている。特定のIT企業への依存度が高まることによる経済安全保障上の懸念も指摘されている。

 デジタル赤字に対しては、マイナスの面だけでなく、IT活用の進展など、プラスの面もあるとの意見が上がる。外資系IT企業が提供する製品やサービスが最良の選択肢ならば、それを利用するのは当然だし、「海外のものだから」という理由で避けるのは現実的ではない。

 大きなシェアを外資系IT企業が獲得している場合、国内のIT企業がすぐに巻き返すのは簡単ではない。既存の製品やサービスを使い続けると、赤字額はさらに大きくなるとの見方がある。しかし、赤字額解消のために新たな製品やサービスを生み出すより、利用しながら付加価値の提供やアイデアの創出を進めるほうが重要ではないだろうか。

 少子高齢化や災害への対応など、日本が「課題先進国」と言われて久しい。ITを使ってそれぞれの課題を解決していけば、国としての発展が期待できる。それが実現できた日には、IT業界を含めて多くの企業に所属する人から明るい話が聞けるようになるはずだ。

 
週刊BCN 編集長 齋藤 秀平
齋藤 秀平(さいとう しゅうへい)
 1984年4月生まれ。山梨県甲州市出身。2007年3月に三重大学生物資源学部共生環境学科を卒業。同年4月に伊勢新聞社(津市)に入社し、行政や警察、司法などの取材を担当。16年4月にBCNに入社。リテール業界向け媒体の記者を経て、17年1月から週刊BCN編集部に。上海支局長を務め、22年1月から現職。旧姓は廣瀬。
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