視点

情報社会でビジネスする皆さまへ

2024/05/22 09:00

週刊BCN 2024年05月20日vol.2014掲載

 コンピュータソフトウェア著作権協会(ACCS)の活動は、違法コピー対策から始まった。活動を始めた当時、警察では趣味でパソコンを持っている方が辛うじて対応してくれるような状況だった。それが今では組織をあげて、著作権侵害を含めたサイバー犯罪対策に取り組んでいる。当然、ITに長けた刑事も多数いて頼もしく思う。40年近く経った今でも、海賊版販売や無断アップロードなど、警察が捜査する著作権侵害事件は絶えないが、近年は不正競争防止法や商標法など、ほかの法律も駆使して健全なビジネスを阻害する行為に対応している。

 一方、海賊版販売などとは別に、企業や団体などの組織内でのソフトウェアやデジタルフォントの違法コピーも長らく問題になっている。こちらは刑事事件となることはまれで、ACCSから個々の事案について発表することも少ないため、一般には知られていない。

 ACCSでは、情報社会の秩序維持のため、海賊版や違法アップロードなどに加えて、組織内での違法コピーについても情報提供を受け付けている。1997年から現在までに受け付けた情報は3600件を超える。これらの情報はACCS会員であるソフトウェア会社に提供しており、ソフトウェア会社はこの情報をもとに違法コピー問題の解決策を講じている。会員からの報告によると、情報提供に基づき解決した事件の和解金総額は約115億円。1件当たり1000万円を超えている。

 これまでの活動の結果、組織内での違法コピーの情報提供数は縮小傾向にある。海外団体の調査でも、日本の違法コピー率は世界的にも低い水準にある。大企業での違法コピーはほぼなく、今は中小零細企業がその中心だ。

 大企業はソフトウェアの導入、使用、廃棄に関する社内規定があり、社員はそれを順守する限り大丈夫なのだが、中小企業では社内規定が整備されていない場合が多く、ソフトウェアライセンスの内容を理解していないことも多い。社員研修も大企業では実施されているが、中小企業ではそれも難しい。

 情報管理が企業ガバナンスとして重要視される中、企業では、コンテンツや情報の扱いと著作権について定期的に社員が学ぶ機会を設けるべきだ。ACCSの講師派遣事業をぜひ活用してほしい。

 
一般社団法人 コンピュータソフトウェア 著作権協会 専務理事 久保田 裕
久保田 裕(くぼた ゆたか)
 1956年生まれ。山口大学特命教授。文化審議会著作権分科会臨時委員、同分科会国際小委員会専門委員、特定非営利活動法人全国視覚障害者情報提供施設協会理事、(株)サーティファイ著作権検定委員会委員長、特定非営利活動法人ブロードバンドスクール協会情報モラル担当理事などを務める。主な著書に「情報モラル宣言」(ダイヤモンド社)、「人生を棒に振る スマホ・ネットトラブル」(共著、双葉社)がある。
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