視点

リアリティーの追求がもたらすものとは

2024/05/01 09:00

週刊BCN 2024年04月29日vol.2012掲載

 米Apple(アップル)のゴーグル型デバイス「Vision Pro」がさらに進化した。簡単に言うと、他社製品と比べて段違いにリアリティーの高い、アバターを通じたコミュニケーションツールとなった。

 公開されたのは、Vision Pro用に新しく搭載した「Spatial Personas」という機能である。ヘッドセットを通して最大5人と、あたかも同じ空間にいるかのようにリアルタイムにコミュニケーションができるのだ。

 従来のアバターコミュニケーション機能は、自分の周りに他人のウインドウが浮かび、その中のアバターと会話をするようなもので、空間共有というよりも空間の一部を他人のスペースとして許可するようなイメージだったが、今回のバージョンでは本当に空間を共有しているかのように感じ、まさに同じ空間にいるような錯覚を起こすレベルである。

 実際、会議中に人に近づいたり離れたりすると、その人との距離感も自然に変わるし、同じゲームを共有してプレーしていれば、そのゲームに伸ばした他人の手が本当にそこにあるかのように感じるのだ。アップルがVision Proを「空間コンピューティング」と呼んでいる意味がよく分かる。まさに空間をコンピューターの出力装置とし、そこに情報を自由に表示することができているのである。

 そして、よりリアルに感じるように細かい仕掛けも満載だ。会話している相手の視線が真っすぐこちらに向いているし、声もそのアバターの方向から聞こえてくる。細かいつくりによって、よりリアリティーを感じさせる工夫は、「現実感」を重要視しているアップルのこだわりを強く感じる。

 今回の機能追加によって感じたのは、リアリティーの追求が一定のレベルを越えたことにより、これまで「リアルとはやっぱり違うよね」と言われていたことが、一気にバーチャルの壁を越えたように感じる。機能を文字で羅列すると何も変わらないが、人が感じている実在感にこだわることで、スマートグラスを掛けっぱなしでも過ごせる。いや、むしろかけていたいと思わせたのはさすがといえる。

 空間コンピューティングでなにを変革するのか。キラーコンテンツが出てくることにより、ゲームチェンジは始まる。ワクワクするとともに競合が一気に増えてくるだろうが、日本は再興するチャンスで、このタイミングに乗らない手はない。

 
事業構想大学院大学 教授 渡邊信彦
渡邊 信彦(わたなべ のぶひこ)
 1968年生まれ。電通国際情報サービスにてネットバンキング、オンライントレーディングシステムの構築に多数携わる。2006年、同社執行役員就任。経営企画室長を経て11年、オープンイノベーション研究所設立、所長就任。現在は、Psychic VR Lab 取締役COO、事業構想大学院大学特任教授、地方創生音楽プロジェクトone+nation Founderなどを務める。
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