視点

タイにおける今どきの日本企業事情

2024/04/24 09:00

週刊BCN 2024年04月22日vol.2011掲載

 今年2月16、17日、タイのバンコク日本人商工会議所主催による第11回日系企業就職フェアが、バンコクのホテルで開催された。パナソニックやキヤノンなど現地に拠点を置く日本企業35社がブースを設け、会場には入りきれないほどのタイの若者が押し寄せていた。

 求職フェアは日本だと新卒、就職後間がない転職希望の20代の若者が中心だが、タイでは20代だけでなく30代、40代が加わる。さすがに50代はいなかったように思えた。

 会場で大手メーカーの日本人社員を見つけ出し、タイでの求人事情を聞いた。これが実に興味深いものだった。

 「昔、タイでワーカーを採用する場合、工場の前に求人票を貼り出すだけで、いくらでも社員は集まった。今から考えると夢のような話です。最近は、電気自動車を中心とした中国企業進出の影響が大きく、タイでの投資額も日本を大幅に抜いています。彼らが社員の給料を引き上げ、育て上げた中間管理職を引き抜くのです。日本企業というブランドが薄れ、中国や韓国、台湾企業と競争する時代となりました。いかに自社の魅力度を高め、勤めやすくするのか。給料の額ではないところで勝負をせざるを得ません」

 いま多くの中国企業は中国政府の政策に嫌気が差し、いかに資金を海外に移すかに腐心している。この逃避先の拠点の一つがタイである。だからタイでは社員の給料が上がり、マンションの家賃が上昇し、諸物価もどんどんと高騰している。新しいチャイナタウンもできている。

 驚いたのだが、バンコクの「はんげつ」という寿司屋は、握り寿司のおまかせで3万バーツ(約13万円)のコースがある。何でも価格が釣り上げられ、日本企業にはさらに円安が追い打ちをかけている。

 このイベントの主催者であるバンコク日本人商工会議所の易木森宏・事務局長は、「タイの日本企業の人材確保は大きな課題の一つ。会員からの要望を受けて、就職フェアの開催だけでなく、ときには地方の大学に声をかけて日本企業の求人PRを行うなど、さまざまな対応策を講じています」と語る。

 時々刻々と経営環境は変わる。前線の日本人社員の懸命な努力は続いている。

 
アジアビジネス探索者 増田辰弘
増田 辰弘(ますだ たつひろ)
 1947年9月生まれ。島根県出身。72年、法政大学法学部卒業。73年、神奈川県入庁、産業政策課、工業貿易課主幹など産業振興用務を行う。01年より産能大学経営学部教授、05年、法政大学大学院客員教授を経て、現在、法政大学経営革新フォーラム事務局長、15年NPO法人アジア起業家村推進機構アジア経営戦略研究所長。「日本人にマネできないアジア企業の成功モデル」(日刊工業新聞社)など多数の著書がある。
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