視点

工数需要の急減に備えよ

2024/04/10 09:00

週刊BCN 2024年04月08日vol.2009掲載

 昨今、「オファリング・ビジネス」という言葉が、SI事業者界隈で聞かれるようになった。これは、顧客からの個別要望に応える「受託開発」ではなく、自社サービスを顧客に提案(オファリング)することでビジネスを生みだすことを意味する。

 クラウドの充実や生成AIの機能向上で、工数需要に伸びしろはなくなりつつある。これらツールの充実により、外注に依存する従来のやり方よりも速くて安いシステムを構築できるようになり、内製拡大を後押しする。慢性的な「エンジニア不足」は、工数の確保を難しくしており、これまでと同じやり方で収益の拡大を目指すことはできない。

 このような変化に対処するために、オファリング・ビジネスへとかじを切らざるを得ない状況が、生まれているわけだ。

 そもそもオファリング・ビジネスという言葉が使われる以前から、独自サービスに取り組む企業は多かったが、なかなか成果をあげられなかった。その理由は「本気になれなかったから」だ。

 受託開発の需要はコンスタントにあり、収益を確保できていた状況で、「新しい独自サービスで受託開発を置き換える」という確固たる覚悟を待たないままに優秀な人材を投入することはなかった。投資も逐次的だったわけで、これではうまくいかないのも当然だ。いま、再びオファリング・ビジネスを叫んだところで同じことになるだろう。

 顧客のDX支援を叫ぶのもいいが、まずはオファリング・ビジネスが叫ばれる背景に真摯に目を向け、自分たちの本質的な変革に目を向けてはどうだろう。

 それは「工数を売ること」から「技術力を売ること」への転換だ。「圧倒的な技術力」で、ユーザー企業の内製化を支援することや、魅力的な独自サービスを本気で実現することに取り組む必要がある。

 これは成長戦略ではない、生き残り戦略だ。まずは、生き残りの道筋を描き、事業の拡大はその先にあると覚悟すべきだ。痛みを伴う変革である。しかし、そうでもしなければ、成長のシナリオは描けないほどに、工数ビジネスの環境は、いま急速に変わりつつある。

 
ネットコマース 代表取締役CEO 斎藤昌義
斎藤 昌義(さいとう まさのり)
 1958年生まれ。日本IBMで営業を担当した後、コンサルティングサービスのネットコマースを設立して代表取締役に就任。ユーザー企業には適切なITソリューションの選び方を提案し、ITベンダーには効果的な営業手法などをトレーニングするサービスを提供する。
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