視点

将来に向けた準備として

2024/04/03 09:00

週刊BCN 2024年04月01日vol.2008掲載

 国内では今日から新年度。多くのIT企業にとって4月は入社式シーズンで、大勢の新入社員を迎えることになるだろう。次世代を担う貴重な人材として、寄せている期待は大きいはずだ。

 メディアの立場からすると、毎年、年明けから年度が変わるタイミングにかけて、取材先企業の経営体制の変更に関する情報に触れることが多い。今年も多くの発表があり、中には長年にわたって経営のかじ取りをしてきた社長の交代もあった。

 世代交代と言えば簡単だが、事業の継続・発展が求められる企業にとっては、入念に準備した上でのスムーズな交代が望ましいだろう。実際、各企業から提供された新社長の経歴を見ると、順調にキャリアを積み、なるべくして社長に就いたことがうかがえる人選は少なくない。

 国内の情報サービス産業は、1960年代に誕生した。以後、ソフトウェアやSIなどのビジネスが盛んになり、技術の進歩とともに多くの企業が誕生した。60年代より前から機器の製造などを手掛け、既に創業100年を超えている企業もある。

 一定の年数でトップが交代している企業がある一方、なかなか事業承継に踏み切れない企業もある。東京商工リサーチが2023年11月に発表した調査結果によると、同年の企業の後継者不在率は61.09%で、調査を開始した19年以来、初めて60%を超えた。産業別で不在率が最も高かったのは情報通信業の77.33%で、前年を0.4ポイント上回った。代表者が比較的若いソフトウェア開発会社などが含まれることが不在率を押し上げたとみられているが、楽観視していいとはいえない。

 世間には名経営者といわれる人はいるが、その人が永遠に組織を率いるのは不可能だ。高齢による弊害もあり、同社は、代表者が80歳以上で後継者が不在の場合、「円滑な事業承継や廃業ではないかたちで将来的に市場からの退場を余儀なくされるケースも少なくないとみられる」と指摘し、早い段階での準備が重要と示唆している。

 4月に入社した新入社員の中に、いずれ社長になる人材が含まれている可能性はゼロではない。関わるプロジェクトなどを通じて着実に経験を積んでもらうことは、将来に向けた準備の一つになる。今の時代に合った方法でしっかり育成してほしい。

 
週刊BCN 編集長 齋藤秀平
齋藤 秀平(さいとう しゅうへい)
 1984年4月生まれ。山梨県甲州市出身。2007年3月に三重大学生物資源学部共生環境学科を卒業。同年4月に伊勢新聞社(津市)に入社し、行政や警察、司法などの取材を担当。16年4月にBCNに入社。リテール業界向け媒体の記者を経て、17年1月から週刊BCN編集部に。上海支局長を務め、22年1月から現職。旧姓は廣瀬。
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