視点

著作権法を学ぶことが創作・想像力を高める

2024/03/27 09:00

週刊BCN 2024年03月25日vol.2007掲載

 ジャストシステムの創業者である浮川和宣さんの「文字を超える」(日本経済新聞社)を読んだ。2年前、同新聞の「私の履歴書」で連載されたものだ。浮川さんはコンピュータソフトウェア著作権協会(ACCS)設立の立役者の1人であり、1990年代には副理事長を務めていただいた。和田成史理事長と話をしていても感じることだが、この本を読んで、浮川さんがソフトウェア開発を通してよりよい社会を目指そうとしていたことに改めて感動した。

 昨年来、AIに関する議論がかまびすしい。ACCSでも会員企業からAIの利用実態を聞いているが、業務効率化のために活用している、または活用を検討している企業がある一方、侵害リスクを考え社内利用だけにとどめ、外部提供コンテンツへの応用は様子見している企業もある。

 AIの著作権法上の位置付けはまだ定まっていない。文化審議会著作権分科会法制度小委員会が「AIと著作権に関する考え方について(素案)」を整理して、ACCSを含め著作権者団体などからの意見をまとめている段階だ。

 そうした中で、AIについて語る多くの企業人が著作権法においては何が問題になっているか、逆に何をすれば問題がクリアになるか、議論の前提になる知識がないのではないか、ということが気になっている。著作権の知識がないと、トンチンカンな議論になりかねないし、利用の是非を判断することもできない。

 生成AIの利用を止めることはできない。AIも社会を豊かにしてくれるだろう。ただし、法的には明確にしておきたい。著作権によってAIの利用が過度に制限されると懸念する人がいるかもしれないが、著作権は何かを禁止するためにあるのではない。文化を高め、経済を発展させ、国力を上げ、私たちの生活を豊かにするためにあるのだ。

 私にしても世間からは違法コピー叩きばかりやっていると見られてきたかもしれないが、和田理事長や浮川さんが事業を通じてよりよい社会を目指してきたのと同じように、著作権のことを広く知ってもらうことで社会がよくなり、その結果、日本の文化力・経済力が上がると信じて活動している。とりわけ教育現場では「著作権法を学ぶことが創作・想像力を高める!」と言葉をつむいでいる。

 よりよい社会のため。同じ志があるなら、ぜひACCSに参加して協働してほしい。

 
一般社団法人 コンピュータソフトウェア 著作権協会 専務理事 久保田 裕
久保田 裕(くぼた ゆたか)
 1956年生まれ。山口大学特命教授。文化審議会著作権分科会臨時委員、同分科会国際小委員会専門委員、特定非営利活動法人全国視覚障害者情報提供施設協会理事、(株)サーティファイ著作権検定委員会委員長、特定非営利活動法人ブロードバンドスクール協会情報モラル担当理事などを務める。主な著書に「情報モラル宣言」(ダイヤモンド社)、「人生を棒に振る スマホ・ネットトラブル」(共著、双葉社)がある。
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