視点

空間コンピューティング時代の到来

2024/03/13 09:00

週刊BCN 2024年03月11日vol.2005掲載

 2月2日、米Apple(アップル)から空間コンピューター「Vision Pro」が発売された。私も早々に手に入れて毎日利用しているが、今までに体験してきたものとは全く違うコンセプトのコンピューターだ。これまでのVR、AR機器と違うのは、グラスをかけて見える世界は、現実空間にデジタルデータが溶け込んでいて、全く違和感がないことである。

 例えば、手に懐中電灯を持ってバーチャルの3Dモデルを照らすと、光がちゃんと3Dモデルを照らし反射される。現実の環境がバーチャルの物体に影響を与えることによって、デジタルの創作物がここに本当に存在している錯覚を起こさせるのだ。今までのXR機器とは全く違うものである。

 アップルはこの機器の説明にVRやARといった単語を一切使っていない。Macでコンピューター市場をけん引し、iPhoneでモバイルコンピューター市場をつくった。そしてモバイルコンピューターに代わる次のカテゴリーとして、空間コンピューターという市場をつくり出した。アップルはXRグラスをずっとかけながら過ごす未来を明確に意図しているのも、ほかと違う点だ。

 空間コンピューターがもたらす最大のイノベーションは、これまでの平面ディスプレイとキーボードという固定されたインプット・アウトプットデバイスを、空間全体に拡張することができるという点で、マウスの代わりに視線で選択し音声で入力する。そして空間すべてを自由に使って表示することができることだ。どこの空間でも入力できて、どこにでも表示できる。これはより人間らしいインターフェースへの変化だといえる。

 また、これまではデジタルなものと物理的なものを分けて取り扱っていた書籍などは、リアルな本と同じように取り扱うことができるようになる。PCに格納すると読むのを忘れてしまいがちだったが、これからは本棚のリアルな本の隣に電子書籍を陳列してもいいし、玄関にスケジュールとタスクリストを置いてみたり、壁紙を好きなように電子壁紙で変更したり、フィジカルなものとデジタルのものを同じように扱えるようになる。

 AIが接続された未来は、人間が能力を大きく拡張させる魔法を手に入れた世界と言っても過言ではないだろう。この転機をチャンスとして生かせるかは、大きな変化に気づき準備できるかにかかっている。もう迷っている時間はない。

 
事業構想大学院大学 教授 渡邊信彦
渡邊 信彦(わたなべ のぶひこ)
 1968年生まれ。電通国際情報サービスにてネットバンキング、オンライントレーディングシステムの構築に多数携わる。2006年、同社執行役員就任。経営企画室長を経て11年、オープンイノベーション研究所設立、所長就任。現在は、Psychic VR Lab 取締役COO、事業構想大学院大学特任教授、地方創生音楽プロジェクトone+nation Founderなどを務める。
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