視点

アジアで成長する日本の新流通業

2024/03/06 09:00

週刊BCN 2024年03月04日vol.2004掲載

 台湾の台北駅前にある大手デパートの新光三越デパートは来店客がまばらなのに対して、近隣に位置し台北の原宿とされる西門にある24時間営業のドン・キホーテは、同じ日系の流通業だが混雑し大当たりである。後者は台湾でも安さの殿堂と銘打っているが、「白い恋人」が4000円、「爽健美茶」が300円、青森県産のリンゴが1000円など、決して安売り路線ではなく高価格路線なのだ。

 両者に開きがあるのは、台北駅地下街の商店街や駅前商店街がシャッター通りという影響もあるので、一概に新光三越デパートの不調によるものではないが、全体的にこのような傾向はアジア全体で続いている。

 ドン・キホーテのアジア展開は日本とはやり方を大きく変えている。アジアの店舗名は「DON DON DONKI(ドンドンドンキ)」で、ジャパンブランド・スペシャリティストアと称して商品の大半は弁当、総菜、鮮魚、日本酒、野菜など日本の食品が占める。「今日は北海道のホタテ特売日」などとイベントを打ちながら、巧みに販売している。

 現在、アジアでの日系百貨店は約30店舗で、最盛期から4割も減っている。これは、前方に成長する現地の百貨店などの流通業があり、後方からはネット通販業が追いかける、挟み撃ちの状況にあるからだ。

 そうした中で、ドン・キホーテやダイソー、コンビニなどの新流通業が躍進している。ドン・キホーテはコロナ禍に台湾で5店舗、マレーシアで3店舗を新規開店している。現在、アジアではシンガポール、香港、タイなどを中心に40を超える店舗を展開している。

 ダイソーもアジア各国に600を超える店舗で攻勢をかけ、特にタイでは約130店舗を展開している。ただ、ダイソーも日本とはやり方が異なる。価格が100円ショップではなく国により差はあるが、おおむね200円ショップである。そして店内はキンキラキンで、まばゆいばかりの明るさだ。

 アジア各国が豊かになるにつれて、現地企業も力をつけて成長する。そうすると、日本企業へのニーズは次第に日本企業でしかできない商品やサービスに移り変わる。このフィルターにかかる企業だけが現地で成長することができる。これからは、日本企業の視点ではなく現地顧客の視点から市場を見ていかなければならない。

 
アジアビジネス探索者 増田辰弘
増田 辰弘(ますだ たつひろ)
 1947年9月生まれ。島根県出身。72年、法政大学法学部卒業。73年、神奈川県入庁、産業政策課、工業貿易課主幹など産業振興用務を行う。01年より産能大学経営学部教授、05年、法政大学大学院客員教授を経て、現在、法政大学経営革新フォーラム事務局長、15年NPO法人アジア起業家村推進機構アジア経営戦略研究所長。「日本人にマネできないアジア企業の成功モデル」(日刊工業新聞社)など多数の著書がある。
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