視点

データドリブンな社会への移行

2024/02/21 09:00

週刊BCN 2024年02月19日vol.2003掲載

 データドリブンな社会は、本当に日本に到来するのだろうか。行政機関においては、データに基づいた政策立案の「EBPM(Evidence Based Policy Making)」やオープンデータの重要性が叫ばれて久しい。

 求人サイトを見ると、民間でのデータスチュワードやデータアナリストの求人は少なく、同職業の企業内での評価の低さを嘆く投稿も散見される。

 先日、米ニューヨーク・メッツの千賀滉大投手と野球解説者の古田敦也氏の対談を聞いた。千賀投手によると、大リーグでは投手が試合中に投球に専念できる環境が整っており、日本とは仕事内容が全く異なるという。

 大リーグでは、相手、味方、球場などのデータ研究のレベルが高度で、指示されたところに投げれば失敗しないという確信があるとのこと。投手は指示されたところに投げることに集中すればよく、指示が外れることは滅多にないとのことだ。

 このことは二つの重要な意味を持つ。最も大きいのは、データを信頼して投球に脳と体全体を集中できるということだ。人間の脳はいろいろな不確定要素に気をつかうことで多くのエネルギーを消費し、投球に迷いを生じさせる。そのことが失投を招く。

 もう一つは、信頼できるデータをチームから選手たちに提供できていることだ。さまざまな種類のデータが投入され、分析されて対策が示されているのであろう。指示されたところに投げられるかどうかに投手は専念できるし、野手も配置につくことができる。

 そのため、試合が始まる前の数日間は次の試合の選手のデータ分析をスタッフやキャッチャーと徹底して行うのだそうだ。試合をしているよりもデータ分析の時間のほうが長いと語っていた。

 ビジネスでもデータの分析なしに思い付きやこれまでの流れで戦っているのと、データを分析して戦うチームのどちらが強いだろうか。

 まずはデータ分析のビジネスにおける価値を再評価し、データ管理の専門職であるデータスチュアードに価値に見合う報酬を払い、分析結果を戦略に生かす戦い方に変えなければならない。変化の速いビジネス環境で勝ち残るために、日本もデータドリブンな社会への移行を急ぐべきだ。

 
サイバー大学 IT総合学部教授 勝 眞一郎
勝 眞一郎(かつ しんいちろう)
 1964年2月生まれ。奄美大島出身。98年、中央大学大学院経済学研究科博士前期課程修了。同年、ヤンマー入社、情報システム、経営企画、物流管理、開発設計など製造業全般を担当。2007年よりサイバー大学IT総合学部准教授、12年より現職。総務省地域情報化アドバイザー、鹿児島県DX推進アドバイザー。「カレーで学ぶプロジェクトマネジメント」(デザインエッグ社)などの著書がある。
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