視点

23年は自治体デジタル活用元年に

2023/12/13 09:00

週刊BCN 2023年12月11日vol.1995掲載

 全国の自治体のデジタル活用を支援する機会が多く、今年はデジタル活用の潮目が変わったと感じる1年になった。

 まず、役場の内部はコロナ禍を経てテレワークをせざるを得ない状況ができ、資料のデジタル保存やセキュアな外部接続環境の整備が進みつつある。同時にデジタル庁がけん引する自治体情報システムの標準化・共通化も2025年度末の期限に向けて準備が進んできた。

 対市民の接点においては、LINEのデファクトスタンダード化が進んでいる。国内には47都道府県と1700を超える市区町村が存在する中、運営会社のLINEヤフーの資料によると、23年10月時点で約1300の自治体が公式LINEアカウントを開設し、市民との接点としている。全体のおよそ7割を超える数字からは、LINEの強い存在感がうかがえる。

 老若男女問わず日常使いしているLINEは、なじみのあるツールであるため浸透しやすく「誰一人取り残されない、人に優しいデジタル化」に一役買っている。インターフェースはLINEとし、バックグラウンドでマイナンバーとの照合による本人認証や、RPAを介した既存の役場のシステムと連携を行うなど、メニューも豊富になってきている。

 普及促進という点において、市区町村のデジタル活用は首長の理解や職員のスキルなどに依存するため、先発組と後発組が出ている。

 先発組のノウハウを共有するために、鹿児島県ではデジタル推進課が主催して振興局単位でのデジタル担当者会を開催している。各市町村で取り組んだこと、成功したこと、失敗したこと、工夫していることなどを共有し、良いところは積極的にまねをして、さらに進化させるTTPS(徹底的にパクって進化)を合言葉に進めている。同時に不安の共有も会の重要な役割になっている。市町村の各担当は「ウチだけが遅れているのではないか」と不安になることがあるのだ。

 都道府県のデジタル化推進担当の役割の一つは、こうした横のつながりをつくることであり、それは都道府県でしかできない。

 デジタル化は、これから潮目を越えて大きな潮流となるであろう。使って業務を効率化させ、少ない人手でも高いレベルの市民サービスを実現できる世界へ向けて一歩踏み出したと私は感じている。

 
サイバー大学 IT総合学部教授 勝 眞一郎
勝 眞一郎(かつ しんいちろう)
 1964年2月生まれ。奄美大島出身。98年、中央大学大学院経済学研究科博士前期課程修了。同年、ヤンマー入社、情報システム、経営企画、物流管理、開発設計など製造業全般を担当。2007年よりサイバー大学IT総合学部准教授、12年より現職。総務省地域情報化アドバイザー、鹿児島県DX推進アドバイザー。「カレーで学ぶプロジェクトマネジメント」(デザインエッグ社)などの著書がある。
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