視点

拡張現実時代がやってきた

2023/11/01 09:00

週刊BCN 2023年10月30日vol.1990掲載

 空のF1と言われるエアレースをXR技術で実現する取り組みが東京・渋谷で行われた。パイロットが各国で飛行したデータを収集し、XR技術を使って渋谷の上空に再現。観客は「STYLY」のアプリを使って、スマホやヘッドマウントディスプレイ越しに渋谷の空で試合を観戦するのだ。飛行機は現実には飛んでいないが、スマホをかざした大勢の観客の間には共感と熱狂が存在し、未来を垣間見せてくれた。

 観戦した人の反応はまちまちだ。元々エアレースが好きな層からは「リアルで見たい、実際と比べて迫力がない」と厳しい意見もあったが、渋谷という街中で実際には行えない飛行機レースをXRという技術が実現したことを評価する声も多い。メタバースもそうだが、リアルを代替しようとしたプロジェクトはうまくいっていないものが多い。リアルのほうがいいという当たり前の比較をしているからである。

 エアレースも海の上で1機ずつタイムレースするなら、何の疑いもなくリアルがいいに決まっている。しかし各国から機体を輸送し、チームがこぞって集まり開催する巨額のコストをかけて行うエアレースの開催はもう難しい。そうした中、新しい取り組みでコストや参加のハードルを下げることで実現した大会を迫力が足りないと批判するのではなく、デジタルでしか楽しめない魅力を楽しんでほしいと思う。まさに渋谷の街中で2機がバトルする様子はリアルではありえない光景だ。

 一方、技術の進化は加速している。今月発売された「MetaQuest 3」は、高画質のパススルー型のMRを実現し、空間をディスプレイとして使う未来を確信させられた。ずっとつけながら家の中で過ごすことができると思えるくらいの出来栄え。家の各所に必要な情報を出しておくことができる便利さは格別だ。

 先日、さっそくキッチンにYouTube、玄関にはスケジュールとタスクリストを置いてみたがこれが便利で、とりわけキッチンで洗い物をしながら泡だらけの手で空中に浮かん
だ画面を操作できるのは、とても快適である。

 XRで開催されるエアレースの観戦でも、技術の進化とともによりリッチな体験ができるようになるはずだ。その過程でリアルではできない体験が新しいジャンルをつくり上げていくことになるだろう。私たちは前を向いて技術の進化を受け入れ、活用しながら未来をつくっていく必要がある。

 
事業構想大学院大学 教授 渡邊信彦
渡邊 信彦(わたなべ のぶひこ)
 1968年生まれ。電通国際情報サービスにてネットバンキング、オンライントレーディングシステムの構築に多数携わる。2006年、同社執行役員就任。経営企画室長を経て11年、オープンイノベーション研究所設立、所長就任。現在は、Psychic VR Lab 取締役COO、事業構想大学院大学特任教授、地方創生音楽プロジェクトone+nation Founderなどを務める。
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