視点

中国発の「底冷え不況」に一抹の不安

2023/10/25 09:00

週刊BCN 2023年10月23日vol.1989掲載

 中国人の元ゼミ生から貴重な報告が入った。

 「今の中国の不況は、見たことも聞いたこともないほど深刻です。家電量販店にも、スーパーマーケットにも、レストランにもお客がいません。大学を卒業しても半分は就職できません(中国国家統計局の発表では、都市部の16歳から24歳の若者の失業率は20%程度だが、北京大学国家発展研究院の張丹丹副教授は就職活動をしていない潜在的な失業者を加えると46.5%に達すると試算する。中国政府は今後、若者の失業率は発表しないとしている)。不動産はまったく売れていません。自動車や家電もあまり売れておらず、発表された販売数は信用しないほうがいいです。人、モノ、金が動かない冷凍庫の中にいるような底冷え不況です」

 この元ゼミ生の報告は街の声であり、ほぼ事実であろう。中国政府は現在、巧みな政策で不況が表面化しないようにしている。例えば、不動産大手の恒大集団の負債総額は約47兆円、債務超過額は10兆円を超えているともいわれるが、どういうかたちになるにせよ破産はさせない。大規模な倒産やリストラを生じさせずに経済を回復させる政策である。

 地方の政府や企業でも大きなリストラは行わずに新規採用を控える、給料の2割カットや遅延は起こるがきちんと支払いは続ける。ともかく表面的には何事もなかったかのように見せることに、細心の注意を払い腐心している。

 このため中国発の不況は、かってのリーマンショクのように直ちに世界に波及することにはならないと思われる。まさに底冷えだから、じわりと効いてくる。これからしばらくは日本経済も中国からの影響を覚悟しなければならない。

 しかし、このやり方では国民に不満がたまることも事実である。例えば、恒大集団は買い主からお金を集めたものの、約70万戸が完成していないとされ、不動産業全体では未完成の住宅が約1000万戸はあるといわれている。買い主は、いつ完成するとも分からない住宅のために銀行にローンを払い続けねばならない。

 同様に、地方政府傘下の投資会社である全国の融資平台も、オフィスビルやマンションビジネスが崩壊し行き詰まった。その負債総額が約1300兆円で、これも「私の投資した金を返してくれ」という話になる。まさに追い風が逆風に変わった。これまで巧みに多くの修羅場をくぐり抜けてきた中国政府だが、今回だけは一抹の不安が残る。

 
アジアビジネス探索者 増田辰弘
増田 辰弘(ますだ たつひろ)
 1947年9月生まれ。島根県出身。72年、法政大学法学部卒業。73年、神奈川県入庁、産業政策課、工業貿易課主幹など産業振興用務を行う。01年より産能大学経営学部教授、05年、法政大学大学院客員教授を経て、現在、法政大学経営革新フォーラム事務局長、15年NPO法人アジア起業家村推進機構アジア経営戦略研究所長。「日本人にマネできないアジア企業の成功モデル」(日刊工業新聞社)など多数の著書がある。
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