視点
安全安心な社会づくりと著作権意識
2023/09/20 09:00
週刊BCN 2023年09月18日vol.1985掲載
一方、著作権の知識が圧倒的に足りないのは、壮年以上の年代だ。私が特命教授を務める山口大学で、学生と教員を対象に著作権に関するテストを行ったところ、学生は7割ほどが正解するのに対して教員の正答は基本問題すら厳しい結果となった。著作権に関する知識について、社会は二極化しているように感じる。
私は現在に至るまで、情報社会における著作権教育活動をけん引してきたと自負している。東京工芸大学での授業は5年目になるが、現役クリエイターやその卵たちに著作権や情報モラルを教えていると「著作権を気にしすぎて萎縮することがなくなった」といった感想が寄せられる。
ゲームやアニメ、映像、写真など七つの学科の学生から講義後に意見や質問を受けるが、さまざまな種類の著作物に関わる問題解決を通じて、学生の視点を高め発想を広げることに役立っていると思う。クリエイティビティを法律面から押し上げていることを実感している。
もちろん、今後もクリエイターや学生への教育を続けていくが、知識が足りない壮年以上をターゲットにした活動がより必要だ。文化庁で著作権課長も務めた故岡本薫氏が、かつて「所有権と同じように著作権を理解する社会になっていく」と語っていたが、そうした社会の実現に尽力したい。
昨年から少年院でも授業を行っていることは以前にも書いた。対象となるのはもちろん若者だが、学校で教育を受ける機会が希薄だった彼ら彼女らは、二極化した一方に位置する。
彼ら彼女らに著作権を説明するのに、「推し活」を例に出す。「推し」とは応援しているアイドルや歌手などを指す。推しに関する著作権を侵害すると、推しに迷惑を掛けることになると説明すると、食いつきが違ってくる。
壮年層に推し活は通じないかも知れないが、知恵を出し、理解しやすいきっかけを考えたい。いずれ著作権が所有権と同じように理解され、当協会の和田成史・理事長が目指す「DXによって安全安心な社会づくり」の一助になると考えるのである。
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