視点

まずは高品質なデータの集積から

2023/09/13 09:00

週刊BCN 2023年09月11日vol.1984掲載

 数週間前にあるIT事業者から届いたメールの中に、無料の生成AIセミナーの案内を見つけた。私自身の生成AIに関する活動で参考になればと応募してみたが、応募者多数のため抽選を行い、その結果、外れた由のメールが届いた。どうやら生成AIセミナーが大人気の模様である。

 みなさんは生成AIセミナーを受講されたことはあるだろうか。生成AIと呼ばれるクラウドサービスをどれか試したことは。関連情報はどのように入手されているのだろうか。ビデオ配信サービスだろうか、それとも書籍雑誌の類であろうか。具体的に、自分のビジネスに活用できそうなアイデアにたどりつけただろうか。何だかいろいろなことに活用できそうだが、どのように取り組めばよいのか目見当がつかないということで、とどまっているのでは。生成AIが嘘をつくとか、生成AIの返答が不確かだと聞いて、やはりそんなものか、実用化にはしばらく待ったほうがよいかと思っているのではないだろうか。

 AIという技術は必ずしも最適解を求めてくれるものではない。いくつもの解となる候補を効率よく提示してくれるもの程度に、捉えることが適切だろう。生成AIはまだ黎明期の段階にあるものの、既に実際に活用するのに十分な機能と品質を備えている。解の精度を高めたい、できるだけ正解に近いものがほしいと思われるのなら、問い掛け(プロンプト)の精度を高めるように工夫し、生成AIをトレーニングするデータの量を増やし、その品質を高めればよい。生成AIを活用するには相応の備えが必要となる。

 まさかとは思うが、みなさんの業務環境にデジタル化されていない紙の伝票や書類の類が残されていないだろうか。そのような状況では、生成AIを活用することなど望めるはずもない。だが、紙の伝票や書類をデジタル化するには、生成AIや従来からあるAIが役に立つ。この機会にAIを活用して社内業務の完全デジタル化に取り組んでみてはどうか。AIを使えばIT活用が楽になることを知ってほしい。

 生成AIは入力されたデータに基づいて出力を生成するため、データが不正確であったり、整っていないと期待通りの出力を得られなかったり、逆に誤った出力を生成してしまう可能性もある。高品質なデジタルデータの集積と維持こそが生成AIを活用するかぎとなる。

 
株式会社SENTAN 代表取締役 松田利夫
松田 利夫(まつだ としお)
 1947年10月、東京都八王子市生まれ。77年、慶應義塾大学工学研究科博士課程管理工学専攻単位取得後退学。東京理科大学理工学部情報科学科助手を経て、山梨学院大学経営情報学部助教授、教授を歴任。90年代に日本語ドメインサービス事業立上げ。以降ASP、SaaS、クラウドの啓蒙団体設立に参加。現在、「一般社団法人 みんなのクラウド」の理事を務める。
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