視点

韓国社会から見えてくるもの

2023/08/30 09:00

週刊BCN 2023年08月28日vol.1982掲載

 韓国へ行ってまず感じるのは物価の高さだ。日本円に換算するとランチが1500円、コーヒーが600円である。こうなるとレストランと喫茶店のお客に中高年客が極端に少なくなる。ソウルはまだそうでもないが、地方ではこの傾向はより強まる。例えば、日本でいえば名古屋にあたる大田(テジョン)の店では、一部の経営者と思われる人以外、中高年者のお客はほとんど見られなかった。

 冷房の効いているターミナル駅である大田駅の大きな待合室は冷気を求めて中高年者で満員だが、構内にある数店のレストラン、喫茶店には中高年客はほとんどいない。韓国は日本経済が停滞していた30年間、それほど飛躍的ではないものの着実に年2、3%の成長を果たし、今では1人当たりの国民所得も最低賃金もすでに日本を抜いている。

 韓国のような経済が成長する社会はどちらかといえば中高年層が割りを食い、日本のような成長しないデフレ経済だと若者が割を食う構造が見て取れた。日本は成長経済に回復させる準備ができているのかも心配になった。

 というのも、韓国のスタートアップ支援政策が財閥系企業と組むなど、すごい勢いなのだ。ソウル市内だけで数えたら47カ所のスタートアップ支援施設があり、それを統括するハブ施設もある。日本はスタートアップ5カ年計画などのアドバルーンを上げているが、少し実践力に欠けている気がする。シリコンバレー、大学発ベンチャーと高みを目指す姿勢は評価できるのだが、欧米型にこだわるスタートアップ支援はどこかを間違えてしまったのだと感じる。成長型企業を多く輩出できる韓国と手堅く守りに入った日本との政策の差がくっきりしているのだ。

 日本政府観光局のまとめによると、今年6月の韓国からの訪日客数はおよそ54万5000人で訪日外国人全体の約26%を占める。これも当然で、日本から高級ウイスキーや日本酒を少々買って帰れば、すぐに旅費くらいは賄えてしまう。韓国で日本の商品は驚くような高値で売られている。日本に行くだけでビジネスができるのである。

 ここで間違えてはならないのは韓国経済が先進国の中ではとりたてて優れていることではなく、日本経済の停滞ぶりがひどすぎるという現実である。そして、われわれがこの停滞病にすっかり慣れてしまっていることが恐いのである。

 
アジアビジネス探索者 増田辰弘
増田 辰弘(ますだ たつひろ)
 1947年9月生まれ。島根県出身。72年、法政大学法学部卒業。73年、神奈川県入庁、産業政策課、工業貿易課主幹など産業振興用務を行う。01年より産能大学経営学部教授、05年、法政大学大学院客員教授を経て、現在、法政大学経営革新フォーラム事務局長、15年NPO法人アジア起業家村推進機構アジア経営戦略研究所長。「日本人にマネできないアジア企業の成功モデル」(日刊工業新聞社)など多数の著書がある。
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