視点

世間のDXに自分たちを当てはめてはいけない

2023/08/09 09:00

週刊BCN 2023年08月07日vol.1980掲載

 「将来を見通すことが難しいから、変化に俊敏に対処できる圧倒的なスピードを持つことが必要だ。そのためには、失敗を許容し、新しいことに果敢に挑む企業文化に変えなくてはならない。DXとは、そんな会社につくり変える取り組みだ」

 こんな話をしたところ、次のような質問をいただいた。

 「わが社には、失敗を許容する文化がありません。そんな会社が、DXに取り組むには、どうすればいいのでしょうか」

 DXとは、文化をつくり変えることだと申し上げているのに、文化がないのでDXに取り組めない。どうしましょうというわけだ。

 このような過ちを正し、DXを正しい軌道に乗せるのがDX推進組織のはずだが、そんな現実を見ようとせずに、各部門に、いまやっている「DXの取り組み」を報告させ、これをとりまとめて、経営者に報告することを自分の役割だと考える。

 しかし、「DXとは何か」がはっきりしないままでは、事業部門から見解を求められても、他社の「DX事例」を調査してレポートするにとどまり、後は各部門に対して「しかるべく解釈して実践してください」となる。

 経営者もDXを「デジタルを使って何かすること」程度にしかとらえていないので、これでも「わが社も頑張っているなぁ」と納得する。

 現場は、「できないけれども、何とかしなければならず、何をすればいいのか」と考え、DX推進組織は、「みんなの合意ですすめましょう」と調整役に徹し、経営者は、リーダーシップを発揮せず、現場に丸投げする。こんなことに、なってはいないだろうか。

 そもそも、自分たちがやっていることは、世間のいうDXに当てはまるかどうかを思い悩む必要はない。デジタル前提の社会に適応しなければ生き残れないという危機感を共有し、自分たちの課題を見定め解決する。それが、うまくいったら、「DX」であると宣言すればいい。世間が語るDXや他社のDX事例に翻弄され、自分たちが実感する課題や変革が置き去りにされてしまっては本末転倒だ。

 他人のDXではなく、自分たちの課題解決に取り組むことこそ、真の意味でのDXの実践であろう。

 
ネットコマース 代表取締役CEO 斎藤昌義
斎藤 昌義(さいとう まさのり)
 1958年生まれ。日本IBMで営業を担当した後、コンサルティングサービスのネットコマースを設立して代表取締役に就任。ユーザー企業には適切なITソリューションの選び方を提案し、ITベンダーには効果的な営業手法などをトレーニングするサービスを提供する。
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