視点

「ITの大転換点」を楽しもう

2023/07/19 09:00

週刊BCN 2023年07月17日vol.1977掲載

 昨年末からこの半年ほど、生成AIや大規模言語モデルについてさまざまな情報がインターネット上をとめどなく流れるさまを興奮しながら眺めていた。ノーム・チョムスキー、スチュアート・ラッセル、スティーブン・ウルフラム、ジェフリー・ヒントンなどAI研究史に名を残すそうそうたる顔ぶれから、レイ・カーツワイル、ユヴァル・ノア・ハラリなどのビジョナリーに至るまで、これほど多様な人たちがAIについての思いを熱く語るという、これまでにない出来事を目の当たりにして、知的刺激にあふれる日々を楽しく過ごすことができた。

 数カ月前は、インターネット上の情報を日々追いかけるのも難しい状況が続いていたが、この1、2カ月は新たな情報量も落ち着きをみせてきたようだ。この流れの中で最も驚かされたことは、生成AIが1億人を超えるサービス加入者に対するパブリックサービスとして現実に成立してしまったという事実だ。これほどのことが、思いの外限られたコンピューティング資源で実現できるということを誰が予想していただろう。自然言語という究極のユーザーインターフェースがITの活用法を劇的に変えるということも認識させられた。

 そして、わずか半年の間に世界的な著名企業が一斉に生成AIや大規模言語モデルへとビジネスのかじを切り、多くのマニアたちがオープンソースを利用して、それぞれのPC環境への実装を始めたということにも驚かされた。国内でもこの半年ほどの間に官民合わせてさまざまな組織がその採用に走り、いくつもの企業がAIサービスの提供を始めた。

 そして数週間前には、さくらインターネットに約68億円、ソフトバンクに約53億円と、生成AI基盤整備の目的で相次いで大型の政府補助が発表された。官民あわせてこれ程の短期間にわが国の組織が新たなる技術トレンドへの対応を見せたことにも大変驚いている。

 AIに対する倫理面での懸念や予測される社会的な負の影響という問題はあるが、世界中で大小を問わずさまざまな組織が、そして数多くの個人が、わずか半年の間に生成AIや大規模言語モデルへの追随を見せたという事実を理解してほしい。これらの技術ノウハウは既に市場へ拡散されてしまっているのだ。ならば、一刻も早くこの技術を習得し、社会的に健全な用途の開発を楽しむというのはいかがだろうか。

 
株式会社SENTAN 代表取締役 松田利夫
松田 利夫(まつだ としお)
 1947年10月、東京都八王子市生まれ。77年、慶應義塾大学工学研究科博士課程管理工学専攻単位取得後退学。東京理科大学理工学部情報科学科助手を経て、山梨学院大学経営情報学部助教授、教授を歴任。90年代に日本語ドメインサービス事業立上げ。以降ASP、SaaS、クラウドの啓蒙団体設立に参加。現在、「一般社団法人 みんなのクラウド」の理事を務める。
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