視点

情報社会を支える著作権知財教育

2023/06/07 09:00

週刊BCN 2023年06月05日vol.1971掲載

 3年以上続いたコロナ禍は、5月8日から感染症法上の位置付けが2類相当から5類に変わった。それまでも徐々に以前のような日常に戻りつつあったが、店舗のアクリル板は撤去され、街の様子が一気に元通りになった。そんな中、今年も新年度が始まり、皆さんの企業でも新入社員を迎えたことだろう。

 私も大学での講義がまた新しく始まった。既にオンラインではなく教室での授業が行われているが、1年単位の授業では、新年度を迎えると著作権や知財の知識を身につけた学生は巣立っていき、また知識のない学生たちに基本の基から教えていくことになる。

 初期の学生の著作権に対する関心は、専攻によって濃淡がある。芸術系の学生たちは自ら作品を制作し発表することや、既に著作権ビジネスに身を置いていることから、著作権に関して知識を得ようとする意欲は強い。講義後、教壇に集まってくる知的好奇心のある学生たちからの質問に回答していると、次の講義の先生が来てしまうこともある。

 一方、一般の学生たちからはそこまでの知識欲は感じられない。それでも私の講座をわざわざ選んで受講してきたのだから、何らか興味を持っているはずだ。そこで私は、ソフトウェアやコンテンツ業界の第一線で活躍するゲストを授業に招いて著作権ビジネスの現状を紹介したり、最新の著作権関連のニュースを紹介し、みんなで一緒にニュースの問題点を考えてみたり、関連本を紹介したりとさまざまなアプローチを行いつつ講義を進めている。

 そうすると、少しずつではあるが、著作権に対する知識が深まるだけでなく、著作権の持つ価値に興味を持つ学生が増えてくるのだ。最終的には私が検定委員長を務めているビジネス著作権検定にチャレンジする学生も多い。

 私が1人でできることは限られる。しかし、志を同じくする仲間が増えれば世界も変えることができる。だから私はコンピュータソフトウェア著作権協会を拠点に情報の価値や意味を伝え、「著作権」が尊重される社会のために活動し続けることができている。大学などの教育機関や少年院などの矯正施設、そして企業や団体での出張授業は地味な活動であるが重要だ。

 イチからの授業は正直大変だが、同志が増え、情報社会の秩序維持活動の土台作りとしてはとてもやりがいもある。

 
一般社団法人 コンピュータソフトウェア 著作権協会 専務理事 久保田 裕
久保田 裕(くぼた ゆたか)
 1956年生まれ。山口大学特命教授。文化審議会著作権分科会臨時委員、同分科会国際小委員会専門委員、特定非営利活動法人全国視覚障害者情報提供施設協会理事、(株)サーティファイ著作権検定委員会委員長、特定非営利活動法人ブロードバンドスクール協会情報モラル担当理事などを務める。主な著書に「情報モラル宣言」(ダイヤモンド社)、「人生を棒に振る スマホ・ネットトラブル」(共著、双葉社)がある。
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