視点

自然言語インターフェースという脅威

2023/05/31 09:00

週刊BCN 2023年05月29日vol.1970掲載

 あるローカルFMラジオ局の番組で生成AIについて対談をしていたときのこと。対談相手の方から「生成AIって、ITを民主化するということですね」と問われて、思わず「そう、その通りです」と返答していた。自然言語こそIT機器活用のための究極のユーザーインターフェースなのだと説明をしていたときのことである。

 PCにはキーボードやマウスなどのユーザーインターフェースが装備されている。専用のペンや指を使って操作するタッチスクリーンやタッチパッドと呼ばれる機器もある。このタッチスクリーンを標準装備しているのが、スマートフォンやタブレットということになる。ほかには、手足や体のジェスチャーで操作する機器もある。自然言語インターフェースという観点からみれば、はなはだ中途半端なものではあるが、音声認識をするスマートスピーカーというものもある。このようにIT機器の操作性を簡便にし、用途を広げるために、ユーザーインターフェースについてはこれまでさまざまな創意工夫が凝らされてきた。

 そのような状況が生成AIの登場により一変してしまった。自然言語インターフェースがこんなにも上手く実装できるとは誰が想像していただろうか。

 これからは、IT機器の操作、あるいはアプリケーションの操作の多くが自然言語インターフェースを主軸とするものに移行していくことだろう。音声入力にせよ、キーボード入力にせよ、生成AIに自然言語でお願いするだけで、絵を描いてくれるし、作曲だってしてくれる。これまでのように描画アプリや作曲アプリの操作手順を覚える必要もなければ、絵画や音楽の知識すら求められることもない。

 しばらくはお願いの仕方に多少の工夫は要りそうだが、すでに今でも生成AIに話しかけることさえできれば、IT機器の操作なんて知らなくても、誰に対しても相応のアウトプットを示してくれる。ITリテラシーなんて論じる意味すら失せてしまった。

 お仕着せの操作インターフェースで固められ、その操作手順を学ぶことを強いる業務ソリューションと称するパッケージソフトウェア群も早晩、その存在価値を失っていくことすら想像される。なにしろプログラムを書くことまで得意なのだから。真っ先に仕事を奪われるのは、われわれIT事業者ではなかろうか。

 
株式会社SENTAN 代表取締役 松田利夫
松田 利夫(まつだ としお)
 1947年10月、東京都八王子市生まれ。77年、慶應義塾大学工学研究科博士課程管理工学専攻単位取得後退学。東京理科大学理工学部情報科学科助手を経て、山梨学院大学経営情報学部助教授、教授を歴任。90年代に日本語ドメインサービス事業立上げ。以降ASP、SaaS、クラウドの啓蒙団体設立に参加。現在、「一般社団法人 みんなのクラウド」の理事を務める。
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