視点

メディアと先端技術の密な関係

2023/05/24 09:00

週刊BCN 2023年05月22日vol.1969掲載

 メディアがブームを一方的につくる時代は終わったと思っていたがそうでもないようだ。SNSの浸透によって多くの消費者は、メディアの発信する情報に流されることが少なくなり、共感するインフルエンサーによってブームが起こる傾向は強まっているが、生活に密着した誰にでも身近で個人が判断できるもの以外はそもそもの情報源がメディアであり、その元記事が間違っていて、必要以上の偏りをもった報道であった場合には、メディアの影響は昔より強くなってしまう。

 例えば、昨年ブレイクし今年予想通りがっかり期を迎えているのがメタバースだが、メディアはこぞって風向きを変えた。だが、よく考えてみてほしい。現実世界で駅前に最高峰の技術を使った音楽ホールが建設され、オープニングアクトが行われ、見学会も盛況だったとする。しかし、そのあとの通常時には演奏会が行われているとき以外、人はいないはずだ。世界一のスタジアムも試合が行われていないときは過疎である。

 つまり、メタバースをつくったらいつも人がいるということを基準に現状を失敗と煽ってしまうことによって、多くの人はメタバースは終わったと感じてしまう。その結果、投資家は離れ、せっかくここまで進化した技術開発が遅れ始めることになるのだ。

 最近、AIに関しても倫理的な問題が注目されている。2018年に米Google(グーグル)が「Project Maven」と呼ばれる米国国防総省のAI開発プロジェクトに協力したことが問題視され、ドローンに搭載するためのAIが「戦争を助けるAIをつくるのでは」という意見によって、同社はこのプロジェクトから撤退となった。このような事案が報じられることで、AIの開発や使用に対する倫理的な問題が社会的な関心事として取り上げられるようになり、抑止力になることはよい面もあるが、逆に技術の進歩を止める力をもっているということにも留意したい。

 AIの発達によって、映像などの視聴者が事実として認識するための材料はいくらでも捏造することが可能となった。私たちが、メディアが発信する情報が信頼たるものか判断するための手段は、日々の積み上げからなるブランドしかないのかもしれない。ブランドは広告でつくられるものではなく日々の積み上げからなるものである――。昔学んだ基本がよみがえってくる。

 
事業構想大学院大学 教授 渡邊信彦
渡邊 信彦(わたなべ のぶひこ)
 1968年生まれ。電通国際情報サービスにてネットバンキング、オンライントレーディングシステムの構築に多数携わる。2006年、同社執行役員就任。経営企画室長を経て11年、オープンイノベーション研究所設立、所長就任。現在は、Psychic VR Lab 取締役COO、事業構想大学院大学特任教授、地方創生音楽プロジェクトone+nation Founderなどを務める。
  • 1