視点

なぜ鯖江商工会議所は変われたのか

2023/05/17 09:00

週刊BCN 2023年05月15日vol.1968掲載

 内閣官房をはじめ経済産業省近畿経済産業局、石川県庁、仙台商工会議所、宮崎商工会議所が、最近、見学に訪れたのは鯖江商工会議所(福井県)だ。いま全国で一番注目を集める。数年前まではごく普通の商工会議所であったが、今は東京の六本木か原宿を思わせる派手なエントランスを備えた超近代的なブランド発信拠点「SABAE CREATIVE COMMUNITY(SCC)」を展開する。

 SCCには、地場製品である約30社の眼鏡、繊維、漆器類が並ぶテストマーケティングスペースや、越前塗りで仕上げた豪華なテーブルのある商談スペースがある。ほかにはメインエントランスにある商品の展示販売スペース、カメラや音響機器、照明を配置したプレゼンスペース、商品の企画・設計からプロトタイプの製作ができる試作・製作スペースなどで構成される。

 ポイントとなるのは日替わりで経営者が代わるチャレンジショップのSCCカフェだ。地方都市は総じて喫茶店やカフェが少ない。商談だけでなく、ちょっとした休む場所が不足気味だ。私が取材した日もカフェは満席であった。もちろんこれだけではない。東京などの展示会への出店のほか仮想商店街を運営し、フランスのパリにはデモンストレーションのための店舗も運営している。鯖江市の人口はわずか7万人弱、会員企業1700社、これが会議所の今の布陣である。

 なぜ、鯖江商工会議所は変わることができたのか。まず、キーパーソンである田中英臣事務局長(当時は経営支援課長)の存在である。次に会頭などの役員らによる理解と支援。そして一番大事なのは“スケジュール作戦”を展開したことである。

 話題の少ない地方では、何か新しいことをやろうとすると評論家がたくさんでてくる。ある程度、煮詰まるまでは少人数で秘密裏に進めた。確かに、これだけのプロジェクトを最初から表に出して議論していたのでは実現は難しい。

 どこの商工会議所や市役所、民間企業でも田中事務局長まではいかなくとも、時代の先を行く先端職員とそれを応援しようとする職員はいる。しかし、こんな動きを好ましく思わない守旧派も多い。風穴を開けたのは、今までのやり方では「まずいぞ」と改革派にのったトップの決断としたたかさだ。全国からの鯖江商工会議所詣でがしばらく続きそうである。

 
アジアビジネス探索者 増田辰弘
増田 辰弘(ますだ たつひろ)
 1947年9月生まれ。島根県出身。72年、法政大学法学部卒業。73年、神奈川県入庁、産業政策課、工業貿易課主幹など産業振興用務を行う。01年より産能大学経営学部教授、05年、法政大学大学院客員教授を経て、現在、法政大学経営革新フォーラム事務局長、15年NPO法人アジア起業家村推進機構アジア経営戦略研究所長。「日本人にマネできないアジア企業の成功モデル」(日刊工業新聞社)など多数の著書がある。
  • 1