政府共通のクラウドサービスの利用環境「ガバメントクラウド」による自治体システムの標準化・共通化に向けた動きが加速している。政府が掲げる移行期限の2025年度末まであと3年弱。全国約1700自治体のリフト&シフト実現で大きな課題となっているのは、デリバリー人材の圧倒的不足だ。プラットフォーマーやSIer各社はこの課題をどう乗り越えるのか。号砲が鳴ったガバメントクラウド。走り出したプレイヤーたちはどのような青写真を描いているのか。第1回はアマゾン・ウェブ・サービス・ジャパン(AWSジャパン)に話を聞いた。
(藤岡 堯)
大場章弘執行役員(左)と渡邉宗行執行役員
「クラウドレディ」になる提案を
AWSはシステム標準化の先行実証事業に選定された八つのプロジェクトすべてで利用されている。大場章弘・執行役員パブリックセクターパートナーアライアンスはデリバリー体制の現状について「もっと頑張らなくてはならない。今十分かと言われれば決してそうではない」と危機感を募らせる。
大手のパートナーは一定の人材を確保し、資格者の育成も順調に進んでいる。このような大規模パートナーによるデリバリーについては大きな支障はないだろう。ただ、自治体システムの標準化においては、地域に根差したパートナーがメインとなるケースも少なくない。大場執行役員は「パートナーによっては、クラウドの取り組みの度合いが異なり、デコボコがある」と指摘する。先進的にクラウドに取り組む企業もあれば、そうでないところもある。後者のパートナーをいかに支援していくかが重要な取り組みになると強調する。
具体的には、無料のオンライン学習コンテンツなどを提供し、スキルアップの機会を設けている。ただ、そういったコンテンツの周知が不足している面もあり、まずはその存在をアピールしていく考えだ。パートナーの現状に合わせてトレーニング内容をカスタマイズすることが可能なほか、公共部門パートナープログラム(Public Sector Partner Program、PSP)に登録することで、AWSジャパンのチームからの直接的なサポートが受けられる。
大場執行役員は22年から各地のパートナーのもとへ足を運び、現状のヒアリングに取り組んでおり、「一番早く『クラウドレディ』になっていただく提案をする、ということを地道に進めている」とする。対話を続ける中で、大場執行役員はパートナー側の意識の変化を感じ取っているという。デジタル庁の発足、ガバメントクラウドの定義の明確化、25年度末までの移行実現をうたう政府の強いメッセージ──。それまでクラウドへの温度感が低かったパートナー、そして顧客となる自治体も、否応なくクラウドに向き合わなければならない環境が生まれているようだ。
DISとの協業を深める
既存のパートナーを育成する一方で、新たなパートナーの開拓も今後は重要となる。ただ、AWSジャパンだけで全国をカバーするのは難しい。そこでAWSジャパンはダイワボウ情報システム(DIS)との協業を深めている。DISは全国にオフィスを構え、各地の顧客やパートナーを支える。「われわれでは直接訪問できないパートナーへの支援は、DISの力を借りて強化している。これまでクラウドに全く取り組んでこなかったリセラーもサポートしている」と大場執行役員は語る。AWSのトレーニングコンテンツに加え、DIS独自の育成プログラムも合わせて提案していく。
クラウドネイティブなパートナーの獲得も欠かせない。大場執行役員は各地でクラウドネイティブなパートナーが増えているとし「皆さんの功績について露出を増やし、東京にいなくとも、各地域でクラウドを推し進めればビジネスが広がることをアピールしたい」と述べる。
例えば、岡山市の両備システムズは、新型コロナウイルスワクチンの予約システムをAWSで構築し、200を超える自治体が利用している。公共領域でもSaaS型でのアプリケーション実装が進んでおり、クラウドビジネスでは都市部と地方でチャンスに差はなくなってきているといえるだろう。その点を訴求することで、地方のパートナーのクラウドへの意欲に火をつけたい考えだ。
「ヨーイドンのビジネス」
ガバメントクラウドはスタートアップを含め、あらゆるベンダーに新たな商機をもたらす可能性がある。渡邉宗行・パートナーアライアンス統括本部執行役員は「クラウドは『ヨーイドンのビジネス』だ」と表現する。AWSでは、毎年数百もの新しいサービスが発表される。それがどう使えるかはユーザーもパートナーも知らない。使いこなすことができた者が勝者となる世界であり、だからこそ「今からでも十分に間に合う」(渡邉執行役員)。
ただし、それは常に新しい情報をキャッチアップし続け、絶え間ないスキルアップとビジネスモデルの転換が求められることでもある。渡邉執行役員は「現業を捨てる必要は全くないが、それだけでは伸びないから次に投資する必要がある。どういうテクノロジーに投資するか。スピード感を考えればクラウドになるだろう」との見方を示す。
大場執行役員は「政府はクラウドネイティブへの方向性を明確に打ち出している。そのビジネスのメリットはパートナーにとっても大きい。単純にクラウドへ置き換えるだけでなく、クラウドネイティブに進化させることのメリットは顧客(自治体)だけでなく、パートナーにもある。そこに気がついてほしい」と呼び掛ける。