視点

ブームと冬の時代

2023/04/19 09:00

週刊BCN 2023年04月17日vol.1965掲載

 どの分野にも歴史的な名作がある。スニーカーでは、バスケットボールの「神様」といわれるマイケル・ジョーダン氏のために作られた米NIKE(ナイキ)の「エアジョーダン」シリーズが一つの例だ。約40年前に発売された初代のモデルの誕生に焦点を当てた映画「AIR/エア」を見てきた。

 私がスニーカーに興味を持ち始めたのは1990年代だった。当時は「ハイテクスニーカー」の全盛期。ナイキの「エアマックス」シリーズを中心に、各メーカーが最新技術を搭載したモデルを発売し、多くの人が目当ての品を買い求めていた。

 熱狂的な様子は社会現象ともいえる状況になったが、次第にハイテクスニーカーブームは落ち着き、冬の時代を迎えた。その後、再びスニーカーが脚光を浴び、現在も高い人気を維持している。90年代との違いとして、メーカー側が積極的にITを活用して顧客との関係を構築していることがあり、変革を実現したメーカーの取り組みは先進事例として注目されている。

 ITの分野では、AIがブームと冬の時代を繰り返しながら進化してきた。これまでに2回のブームがあり、今は2000年代から続く「第三次AIブーム」の中にあるといわれている。最近は、特に対話型AIへの注目度が高く、社内や取材先などで話題に上がることが多い。過去のブームが終わった理由としては、AIができることよりも社会からの期待が高すぎたことが挙げられているが、対話型AIは、現時点で多くの人の期待に応えているようだ。

 コロナ禍以降、DXに企業からの関心が集まり、IT業界には引き続き追い風が吹いている。ブームともいえる状況だが、これまでの歴史を見ると、冬の時代が到来する可能性は否定できない。そうなったときでも選ばれるようにするために、各ベンダーには、業界内の最新動向をしっかりと把握し、顧客にとって必要な取り組みを着実に進めることが求められる。

 ちなみに、ナイキは、ジョーダン氏との契約をきっかけに、バスケットボールシューズの分野で確固たる地位を築いた。それまでは他社の後じんを拝し、不振にあえいでいたが、信念を貫いた結果、起死回生を遂げたのである。こちらの事例も、競争が激しいIT業界では参考になるのではないだろうか。

 
週刊BCN 編集長 齋藤 秀平
齋藤 秀平(さいとう しゅうへい)
 1984年4月生まれ。山梨県甲州市出身。2007年3月に三重大学生物資源学部共生環境学科を卒業。同年4月に伊勢新聞社(津市)に入社し、行政や警察、司法などの取材を担当。16年4月にBCNに入社。リテール業界向け媒体の記者を経て、17年1月から週刊BCN編集部に。上海支局長を務め、22年1月から現職。旧姓は廣瀬。
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