視点

「ものづくり太郎」チャンネルが教えてくれること

2023/03/22 09:00

週刊BCN 2023年03月20日vol.1961掲載

 チャンネル登録者が約18万人で、製造業系のYouTuberではトップクラスの「ものづくり太郎」の話を聞く機会があった。格好はサングラスをかけてヤンキー風だが、日本企業のものづくりについて大変興味深い話をする。一つ一つ、うなずくことが多かった。会場には熱心に聞き入る町工場の経営者とおぼしき姿もあった。

 まず彼が取り上げたのは、多くの企業がYouTubeで自社の製造サービスを垂れ流し続けることだった。ワンパターンで、ただひたすら同じものを流し続ける。かなり資金をかけて作成しているが、これでは何にもならない。

 理由はどこにあるのか。一番はYouTubeを担当する部門が、多くの企業で窓際ということだ。日本企業はまだそんな認識でしかない。彼は内容を毎日少しずつ変えてほしいと指摘する。登録者はその変化を追いかけているからだ。

 そのためには社長がまず毎日、自社のYouTubeを見る必要がある。うまくYouTubeが機能すると、営業部員10人分の仕事はする。しかも不満も言わず1日24時間、1年365日仕事をしてくれる。

 重要なことはYouTubeの内容が面白いこと、そして見る側に得があることだとも話す。ある大手メーカーのYouTubeの問題点、生産システムの課題点を極めて鋭く指摘し、YouTubeを指導することで業績が大きく改善した事例も紹介した。

 彼の話は、時には大きな経営戦略にも結びつく。低賃金のアジアで製品をつくり、豊かな欧米で売る。多くの日本企業は、この思考法からまだ脱却できていない。少子高齢化でマーケットが細る欧米よりも、新富裕層が増えるアジア、中東を加えないとうまくいかない。アジアは主要な生産基地で、かつ販売基地なのだ。

 彼は毎日多くの情報を発信するから、多くの情報も入ってくる。一つ一つはミクロの街角情報、町工場情報であるが、これをつなげると大手の経済新聞では読み取れない、すごいものづくり情報の塊ができてくる。

 いまさらながら、米Google(グーグル)はすごい産業インフラを提供してくれたものだと思う。これをどのようにして使うのか、使わないのか。中小企業が最大のチャンスの時という「ものづくり太郎」の言葉をどう受け止めるのか。それが問われる時代となってきた。

 
アジアビジネス探索者 増田辰弘
増田 辰弘(ますだ たつひろ)
 1947年9月生まれ。島根県出身。72年、法政大学法学部卒業。73年、神奈川県入庁、産業政策課、工業貿易課主幹など産業振興用務を行う。01年より産能大学経営学部教授、05年、法政大学大学院客員教授を経て、現在、法政大学経営革新フォーラム事務局長、15年NPO法人アジア起業家村推進機構アジア経営戦略研究所長。「日本人にマネできないアジア企業の成功モデル」(日刊工業新聞社)など多数の著書がある。
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