視点

内製化の拡大はSI事業者に対するユーザーの諦めか

2023/01/11 09:00

週刊BCN 2023年01月09日vol.1952掲載

 ユーザーの内製化が拡大している。その理由の一つは、時代遅れのSI事業者に頼れないからではないか。いまだ多くのSI事業者は、昔ながらのテクノロジーやメソドロジーに支えられたスキルを前提にしている。例えば、インフラやプラットフォームを構築し、アプリケーションを開発することだ。そんなことは、クラウドがやってくれるので、自前でやる必要はなくなりつつある。

 ユーザーがほしいのは、「ITサービス」であって「ITシステム」ではない。ITサービスを使うには、ITシステムをつくる以外になかったが、その必要はなくなった。しかも、機能や性能の向上、トラブルへの対応、運用管理など、ビジネスの価値に直結しないことは、ベンダーに任せられるクラウドのほうが圧倒的にコストパフォーマンスがいい。

 それにも関わらず、これまでのやり方をそのままに、クラウド対応を考えているSI事業者がまだまだ多い。具体的には、システム資源の調達手段としてクラウドを捉え、その上で動くアプリケーションをつくり、運用も自分たちで提供しようとする。しかし、クラウドは、できるだけつくらずに、運用の手間もかけずにITサービスを実現することを目指している。

 この現実が分かっていないSI事業者に対する顧客のいら立ちや諦めが、内製化の拡大を促しているのではないか。つまり、いまの常識に対応できないSI事業者に見切りをつけて、自分たちで何とかしようとする施策だ。当然、ユーザーがSI事業者の競合となる。

 かつてSI事業者には「つくるための技術力」が求められていたが、いまは「つくらないための技術力」が求められている。既存のサービスを目利きし、できるだけコードを書かずに、ITサービスを実現するための「技術力」だ。

 かつての価値観から抜け出せずにいる情報システム部門もあり、そんな情シスを頼らずに、事業部門主導で内製化を行う動きが広がっている。そんな情シスにしかコンタクト先のないSI事業者もまた事業部門から見放されている。改めてこの現実を問い直してみるべきだろう。  

 
ネットコマース 代表取締役CEO 斎藤昌義
斎藤 昌義(さいとう まさのり)
 1958年生まれ。日本IBMで営業を担当した後、コンサルティングサービスのネットコマースを設立して代表取締役に就任。ユーザー企業には適切なITソリューションの選び方を提案し、ITベンダーには効果的な営業手法などをトレーニングするサービスを提供する。
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