視点

「バーチャルメタバース」から「リアルメタバース」へ

2022/12/07 09:00

週刊BCN 2022年12月05日vol.1948掲載

 「バーチャル○○が過疎化」。そんなニュースが飛び交っている。実際、バーチャル仮想空間都市は、イベント開催時以外は人がいないというのが現実だ。15年ほど前、「Second Life」という仮想空間での経済圏ブームが終焉を迎え、同じような状況が起こっていた。当時、終焉の理由として指摘されていたのはコンピューターパワーの不足だ。では、それはいま解決されたのかというと、実はそうではない。

 スマホの普及によって、システムはモバイル端末でストレスなく動くことが求められる。当時、PCで求められていた描画力が、いまはスマホで求められているので、実は描画される世界はあまり進化していない。もちろん最新のPCを使い、専用のヘッドマウントディスプレイを装着して見る仮想空間は、当時と比べ物にならないくらい綺麗になっている。しかし、普通の人が使うスマホでサクサク動く描画の品質は決して高くないというのが実態だ。

 そうなると、現在計画されている「バーチャルメタバース」では、現実を凌駕する体験をつくるのは不可能であり、実用性の高いコミュニティーが存在し、そこに行く理由がない限り誰も集まらないだろう。コミュニティーづくりに成功していない今の仮想空間においては、過疎化は当然だといえる。

 一方、コロナ禍において経済との両立を求める声も大きくなり、リアルな街をメタバーステクノロジーで拡張させる「リアルメタバース」に注目が集まっている。

 このリアルメタバースは、現実世界の空間すべてを立体ディスプレイに投影し、建物や商品の位置にぴったりと合わせてAR表示できる技術だ。例えば、弊社では東京・渋谷のスクランブル交差点をNFT(Non-Fungible Token)ブランドとコラボレーションし、スマートグラスやスマホをかざすと実際の建物や空が塗り変わり、リアルだけではできなかった新しい体験を提供している。

 バーチャル空間に閉じたメタバースと違い、リアルメタバースはこれまで価値を持たなかった空間に全く新しい価値をつくり出すことができるのだ。それが集客につながり街は賑わうので、リアルの価値が上がるということになる。

 いずれ触感や感情はバーチャル仮想空間に持ち込むことができるようになり、体験価値が高くなると思われるが、それまではリアルメタバースに注目してほしい。きっと未来が見えるはずである。

 
事業構想大学院大学 教授 渡邊信彦
渡邊 信彦(わたなべ のぶひこ)
 1968年生まれ。電通国際情報サービスにてネットバンキング、オンライントレーディングシステムの構築に多数携わる。2006年、同社執行役員就任。経営企画室長を経て11年、オープンイノベーション研究所設立、所長就任。現在は、Psychic VR Lab 取締役COO、事業構想大学院大学特任教授、地方創生音楽プロジェクトone+nation Founderなどを務める。
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