視点

変革は「いま」を終わらせることから始めよ

2022/11/09 09:00

週刊BCN 2022年11月07日vol.1945掲載

 社会心理学の父と言われるクルト・レヴィンは、変革を成功に導くには、従来のやり方や価値観を壊し(解凍)、それらを変化させ(変革)、新たな方法や価値観を構築する(再凍結)という3段階が必要だと述べている。

 第1段階の解凍(unfreezing)。解凍とは、これまでのやり方を変えていかなければ危機的状況に陥るという現状認識と危機感を共有し、新しい考え方、やり方によって改善していく雰囲気を醸成すること。既存の価値観や先入観を捨てて、新たな企業文化や風土をつくっていこうとの考えに従業員が合意し、新しい取り組みに向けた推進力を生み出すことでもある。

 第2段階の変革(moving/移動)。目指すべき改革の方向性や全体像を共有し、誰が、何を、いつまでに実行するかなどの具体的な実行計画を定める。実行過程で効果を検証し、試行錯誤を重ねながら変革を進めていく。

 第3段階の再凍結(freezing)。変革の成果を検証できた段階で、それを組織内に定着させ習慣化させる。そうすることで、組織内では変革後の状態が当たり前のものとして定着する。つまり、新しい企業風土や文化が根付く。

 企業を取り巻く環境は変化し、将来予測が困難な状況となりつつある。このため、何か新しいことを始めなければと多くの企業がもがいている。DXが世間をにぎわすのも、そんな背景があるからだろう。

 ただ、この変革の3段階に従うならば、「新しいことを始めるためには、まずは『いま』を終わらせなくてはならない」。新規事業であれ、DXであれ、いずれもこれまでの常識を終わらせて、新しいことに置き換えなくてはならないということだ。

 では、何を終わらせるのか。それを十分に議論し、置き換えることでもたらされる価値を明らかにし、その上で新規事業や変革を実践しなくてはならない。

 新規事業が生まれないのも、DXがうまく進まないのも、新しいことを始めることにばかりとらわれているからではないか。まずは、「『いま』を終わらせる」ことから取り組んではどうだろう。

 
ネットコマース 代表取締役CEO 斎藤昌義
斎藤 昌義(さいとう まさのり)
 1958年生まれ。日本IBMで営業を担当した後、コンサルティングサービスのネットコマースを設立して代表取締役に就任。ユーザー企業には適切なITソリューションの選び方を提案し、ITベンダーには効果的な営業手法などをトレーニングするサービスを提供する。
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