視点

情報社会に復帰する君たちへ

2022/10/26 09:00

週刊BCN 2022年10月24日vol.1943掲載

 著作物や知的財産を守り育む社会を実現するためには「法」と「技術」と「教育」のバランスが重要だと、コンピュータソフトウェア著作権協会(ACCS)の設立以来、主張してきた。とりわけ教育には力を入れる必要がある。その対象は、小学校から高校、大学などの学生を中心に、企業などの社会人にも行ってきた。それが次は少年院で行うことになった。

 少年院は、法務省のサイトには「家庭裁判所から保護処分として送致された少年に対し、その健全な育成を図ることを目的として、矯正教育や社会復帰支援等を行う法務省所管の施設」と記されている。収容者の3~4割は、今は詐欺や薬物の受け渡しなどに関わった人と聞いている。

 私が訪問するのは、仙台にある東北少年院。ここではWebデザインを学び、少年院のサイトを制作することに挑戦させるという。東京にある多摩少年院では、来年度からプログラミング教育を行うと聞いている。全国の少年院は、これまで職業指導として情報処理科があったが、今年4月にこれを発展させた「ICT技術科」を新設した。これまでなら、出院した後は肉体労働に従事することが多かったのだろう。しかし、これからの時代はICTを活用した職業も視野に入れ自立してもらおうとしているのである。

 実は、著作権教育を通じた法教育の必要性を説明するため、法務省を訪ねようとしていた。ところが新型コロナウイルスのまん延で面会はかなわず今に至っていた。一方で、私が検定委員長を務める著作権検定に、少年院の刑務官などの受検が増えていると耳にしている。法務省は着々と準備を進めてきていたのだと思う。

 もちろん少年院で受けた教育が、すぐに効果が出るかは分からないが、人生のどこかの場面できっと役に立つ。私も限られた時間で著作権とそれに伴う法とは何か、といったことを、いかに伝えようかと考えているところだ。

 そもそもパソコンが家庭になく、触れたことがない少年も少なからずいるようだ。さまざまな可能性を広げる教育を用意して自立してもらう試みは素晴らしいと思う。

 今回の少年院での講義は教育活動の延長であると同時に、ACCSにとっては社会貢献と捉えることもできる。和田成史理事長からは、積極的に協力するように指示を受けた。責任を持って進めていきたい。

 
一般社団法人 コンピュータソフトウェア 著作権協会 専務理事 久保田 裕
久保田 裕(くぼた ゆたか)
 1956年生まれ。山口大学特命教授。文化審議会著作権分科会臨時委員、同分科会国際小委員会専門委員、特定非営利活動法人全国視覚障害者情報提供施設協会理事、(株)サーティファイ著作権検定委員会委員長、特定非営利活動法人ブロードバンドスクール協会情報モラル担当理事などを務める。主な著書に「情報モラル宣言」(ダイヤモンド社)、「人生を棒に振る スマホ・ネットトラブル」(共著、双葉社)がある。
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